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 「ま、生徒会って近寄りがたいし、市川みたいなのが役員で良かったかもな」


 そんな俺を見て、舞原は肩を竦めた。


 「え……」
 「独裁的で傲慢なやつよかマシってこと。俺らが三年になったときは安泰だな」
 「まあ、馬鹿と何とかは使いようって言うしな」
 「隠す場所違ぇよ!」


 けたけたと笑うクラスメイトたち。
 ぽかんとして見ていると、笑いに一段落ついた舞原たちは、呆然としている俺に気づいたらしい。皆気まずげにに視線を逸らす、そのなかで舞原がバッと頭を下げた。


 「ごめん市川!」
 「はぇ?」


 どうしたんだ、急に。
 なぜ謝られているのか分からなくて、ますます呆けた俺の顔を、「馬鹿面」と有坂が一蹴した。


 「や、一学期の頃とか、お前が影で色々言われてんの気づかないふりしてたから」
 「俺もシカトしてたし」
 「………僕なんてそれに混じってた」


 あぁ、そうか。舞原たちの真意を理解した俺は、先ほどの言動に納得する。
 けれどもう、気にしてないんだけどなあ。今は表立ってそう悪口を言われることもないし、毎日楽しくやってるし、そもそもクラスメイトを恨んだことなんてない。


 「本当、悪かった」


 別に、全然、余裕だし。
 でも頭を深く下げるクラスメイトを見ていたら、自然と俺の涙腺は潤むわけだ。


 「………まいはらぁ〜!」
 「うわっ!?」


 涙声の俺に、舞原が顔を上げたその瞬間、俺は勢いよくその首に抱きついた。


 「ちょ、離せ市川っ!」
 「俺、舞原がクラスメイトで良かった! 大好き舞原! 愛してる!!」


 ぐりぐりと頬を押しつけると、真っ赤になった顔が目に入った。身長があまり変わらないから、普段長身に囲まれて生活している俺としては、無意味な優越感を抱いてしまう。


 「もー舞原ってば可愛いんだからー」
 「うぇ、あ、ちょ、」
 「市川ー、俺らも謝ったんだから俺んとこ来いよー!」
 「舞原だけずるいだろー!」
 「的井も遠藤も愛してる! ラブ!!」
 「わーっしゃっしゃっしゃ、よーしよーし」


 学園祭準備期間第一日目。
 第一学年Sクラス、フード班の席の周りは異様な盛り上がりを見せ、クラス中の注目を集めていたという。
 過度なスキンシップを取る俺の姿に、


 「………ちょっと舞原、本気で惚れたら西園寺会長に殺されるよ」
 「分かってるっつーの! ……ていうかアレは反則だろ………」


 有坂と舞原がこんな会話を交わしていたことを、俺は知らない。知るはずもない。


 「近寄りがたいと言えばさー」
 「ん?」


 スキンヘッド的井に未だ頭を撫でられながら目線を上にやる。的井は高校一年生の癖に成長期がお早いらしく、一七〇は余裕で越える身長で俺を見下ろす。


 「もう一人の特待生はどうしたんだ? 今日」


 あれ、と的井が指差した先には、木崎の姿があった。

 そう、木崎は今朝から様子がおかしい。部屋へ迎えに行ったときから不機嫌オーラを惜しみなく放っていて、それは授業中、先生が近寄れないほどだった。
 昼休みになって学食に行こうと誘えば「いらない」の一点張りで、午後からの学祭準備は教壇に立ち指揮を執る委員長の隣で机に突っ伏している。

 ていうか木崎はフード班なの、インテリア班なの、衣装班なの。あればサボってるんじゃないのかと思ったけれど、隣に委員長がいる限りはそうでもないのかもしれない。


 「木崎? 知らない」
 「知らないってお前……」
 「木崎と心を通わせられるのはお前と委員長くらいなんだから、何とかしなさい!」


 俺は猛獣使いか。




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