--03 「木崎がメイド喫茶でやる気ねぇ……。ふーんへーえ」 「司気持ち悪いよ」 ニヤニヤと笑う司に、笑顔でぴしゃりと言い切る紫先輩。その様子を見て、駒井先輩が噎せたように咳込む。 「晴一に教えてやろ。あいつの顔見てみてーな」 「何で晴一さん?」 「あいつムッツリだから」 司の失礼発言に、駒井先輩が今度こそ笑い出した。 「確かに! 絶対百面相する!!」 「見たいけど見せたくないー、みたいな」 「ちょっと今言ってこよーぜ」 何なんだこの二人は。 煩わしそうな顔の紫先輩も、クラスメイト二人を今更止める気もないらしく、口に出して止めようとはしない。 お茶もそこそこに二人が生徒会室を出て行くと、急に静かになったような気がした。 「駒井は………何というか、悪ふざけが過ぎる」 「ははは……」 そうですね。 あれは才能だな、と褒めているのか皮肉なのか分からない口調で、紫先輩はオランジェットをつまむ。唇の先に咥えパキンと折ると、透き通った黄金(キン)色の粉がパラパラと落ちた。 「才能と言えば僕の愚弟だよ。発想は突飛だし、理論立っていないことが多いから収束が付かない。二年のSクラスはどうなることやら」 上ノ宮がブレーキになればいいけど、とひとりごちるように言う紫先輩。 俺は口に含んでいた紅茶をごくりと飲んだ。 「あの、」 「何?」 「第三学年のSクラスは何をするんですか?」 実行委員会の会議には、生徒会役員として俺も参加していたけれど、まとめに必死で各クラスの催しまでは詳細に覚えていない。 改めて聞くと、紫先輩は笑みを浮かべたまま遠くを見るような目をした。 「ホスト」 「………え」 「立案は駒井。推したのが司。反対する生徒なんていなかったよ」 それは………ご苦労様です。 ていうか高校の出し物として、「ホストクラブ」というのはありなんだろうか。よく先生も認可出したな。 俺の表情を見て「ノンアルコールしか出さないらしいから、一応大丈夫みたい」とげっそり言う紫先輩。そういう問題ではないのだけれど、俺は黙っていることにした。 「決まったよー!」 突然勢いよくドアが開き、ご機嫌そうな近江先輩が入ってきた。いつも血色のいい肌が、一段と紅く染まっているように見える。 「何がですか?」 「学園祭!チョコレート工場だよっ!」 「えっ」 「えっ」 「………止めれなかった」 後ろからトボトボ入ってくる大倉先輩に、俺たちは顔を見合わせた。 [←][→] [戻る] |