[携帯モード] [URL送信]
--04
 
 
 何なの。もう何なのこいつ。

 理事長から貰ったという「認可」の印を見て、俺はため息を吐いた。
 確かに学校祭がなくてがっかりした。それは認めよう。でも、こうまでして強行することではないし、独断でそんなことするなと言いたい。


 「嬉しくねーの?」
 「ねぇよ」


 即答して書類をぺいっと返すと、司は少しだけ眉を寄せ、拗ねたようなその顔を逸らした。


 「お前喜ぶと思ったのに」
 「…………え」


 ちょっと待て、何でそこでそんなこと言う。そこで急にしおらしくなる。
 お前俺様じゃん。誰かのために何かするとかありえないじゃん。俺一人のために理事長のところに通って、学園全体巻き込んで行事立てるとか、似合わないよお前。

 行儀悪くもテーブルの上に乗っていた俺は、急な眩暈に襲われた。
 ぐらり、と倒れそうになる。


 「失礼する!!」


 が、何とか意識を取り戻したのは、生徒会室のドアが思いっきり吹っ飛んだからだった。


 「え」
 「よっ、桐生」
 「随分バイオレンスなノックだね。驚いたよ」


 ズズゥン……と鈍い音を立てて倒れたドアの向こうに、立っていたのは風紀委員会の全員だった。鬼神・上ノ宮先輩が案外お怒りでないことに安心し、背中から思いっきりソファにダイブする。


 「取り消せ」


 風紀委員長の桐生先輩がツカツカと上がり込んで、司の額にべっと紙を叩きつけた。


 「ふざけるな。風紀の仕事がどれだけ増えると思っている。中等部生徒だけならともかく、外部の人間を入れるだと?」
 「その辺決めたのは理事長だし」
 「立案はお前だろう。今すぐ取り消せ」


 会話の流れと、額に貼り付けた書類から考えて、二人の話題は間違いなく学園祭のことだ。
 すみません桐生先輩、立案したのはそこの馬鹿ですが、元凶は俺なんです。

 あぁ、もうどうしよう。
 司が馬鹿なんだよ。別に俺は頼んでないし。ちょっと言ってみただけだし。「こうなったらいいなー」という思いつきであって、予定にない学祭を本気でやりたいだなんて思ったわけでもない。

 でも、嬉しい。
 学園一の俺様が、俺のちょっとした思いつきを、本気で叶えてくれた。
 そのことが凄く、嬉しい。わ、どうしよ。顔熱い。


 「――…つまり市川に判断を委ねれば宜しいかと」
 「はっ!? 何が!?」


 急に名前を呼ばれて肩がびくりと跳ねた。
 何事かと顔を上げれば、一斉に視線が合って驚く。すみません、俺なにも聞いてませんでした。

 「そこから聞いてなかったのか」と呆れる木崎に、返す言葉もなくうっと詰まる。


 「学園祭。お前はどう思う」
 「うー……やっぱ俺個人が言ったから、って理由で学園全体巻き込むのは、罪悪感………とか、あるけど」
 「あぁ」


 木崎は気のない風に紅茶を注ぐ。
 それでもちゃんと話を聞いてくれているのは分かるから、俺は言葉をつないだ。


 「俺個人で言うなら、普段生徒会とかでクラスにも馴染めてないし。……それに、学年関係なく楽しめるし。外部の人も呼ぶなら、いい機会だと思う。うん。チームワークとか出来るし」




[←][→]

4/34ページ

[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!