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何なの。もう何なのこいつ。
理事長から貰ったという「認可」の印を見て、俺はため息を吐いた。
確かに学校祭がなくてがっかりした。それは認めよう。でも、こうまでして強行することではないし、独断でそんなことするなと言いたい。
「嬉しくねーの?」
「ねぇよ」
即答して書類をぺいっと返すと、司は少しだけ眉を寄せ、拗ねたようなその顔を逸らした。
「お前喜ぶと思ったのに」
「…………え」
ちょっと待て、何でそこでそんなこと言う。そこで急にしおらしくなる。
お前俺様じゃん。誰かのために何かするとかありえないじゃん。俺一人のために理事長のところに通って、学園全体巻き込んで行事立てるとか、似合わないよお前。
行儀悪くもテーブルの上に乗っていた俺は、急な眩暈に襲われた。
ぐらり、と倒れそうになる。
「失礼する!!」
が、何とか意識を取り戻したのは、生徒会室のドアが思いっきり吹っ飛んだからだった。
「え」
「よっ、桐生」
「随分バイオレンスなノックだね。驚いたよ」
ズズゥン……と鈍い音を立てて倒れたドアの向こうに、立っていたのは風紀委員会の全員だった。鬼神・上ノ宮先輩が案外お怒りでないことに安心し、背中から思いっきりソファにダイブする。
「取り消せ」
風紀委員長の桐生先輩がツカツカと上がり込んで、司の額にべっと紙を叩きつけた。
「ふざけるな。風紀の仕事がどれだけ増えると思っている。中等部生徒だけならともかく、外部の人間を入れるだと?」
「その辺決めたのは理事長だし」
「立案はお前だろう。今すぐ取り消せ」
会話の流れと、額に貼り付けた書類から考えて、二人の話題は間違いなく学園祭のことだ。
すみません桐生先輩、立案したのはそこの馬鹿ですが、元凶は俺なんです。
あぁ、もうどうしよう。
司が馬鹿なんだよ。別に俺は頼んでないし。ちょっと言ってみただけだし。「こうなったらいいなー」という思いつきであって、予定にない学祭を本気でやりたいだなんて思ったわけでもない。
でも、嬉しい。
学園一の俺様が、俺のちょっとした思いつきを、本気で叶えてくれた。
そのことが凄く、嬉しい。わ、どうしよ。顔熱い。
「――…つまり市川に判断を委ねれば宜しいかと」
「はっ!? 何が!?」
急に名前を呼ばれて肩がびくりと跳ねた。
何事かと顔を上げれば、一斉に視線が合って驚く。すみません、俺なにも聞いてませんでした。
「そこから聞いてなかったのか」と呆れる木崎に、返す言葉もなくうっと詰まる。
「学園祭。お前はどう思う」
「うー……やっぱ俺個人が言ったから、って理由で学園全体巻き込むのは、罪悪感………とか、あるけど」
「あぁ」
木崎は気のない風に紅茶を注ぐ。
それでもちゃんと話を聞いてくれているのは分かるから、俺は言葉をつないだ。
「俺個人で言うなら、普段生徒会とかでクラスにも馴染めてないし。……それに、学年関係なく楽しめるし。外部の人も呼ぶなら、いい機会だと思う。うん。チームワークとか出来るし」
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