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 僕は自炊をしない。
 というか、出来ない。ミシュラン五つ星の料理人が常駐している我が家で、わざわざ自炊をしようとは思えなかった。
 しかし何の計らいか、僕の部屋には叔父が用意したらしい最新のシステムキッチンと、高級食材の詰まった冷蔵庫がある。


 「うわっ! 台所すげえ!」


 寮に案内されたとき、「龍馬が入るからリフォームしたよ」と叔父が言ったキッチンは、やはり他の部屋とは違うらしい。


 「これどーやって使うんだ?」
 「知らん」
 「えっ!」
 「使ったことない」
 「えええ!? 冷蔵庫パンパンだけど!」
 「適当に使え」
 「うわすげぇ、黒毛和牛とか入ってる………」


 市川はキッチンに感動しているので、風呂のお湯を溜めておくことにした。ボタン一つでお湯が沸き、風呂水が溜まれば勝手に止まる。

 ボタンをセットし、そのままリビングを突っ切りベッドルームへ向かう。
 クローゼットの中から適当な服を引っ張り出した。スウェット素材のパンツに、くたびれたカットソー。部屋着である。


 「てゆーかあれだな、木崎の部屋って」


 代えの眼鏡を掛けてリビングに戻ると、市川は既に何か作り始めていた。


 「何だ?」
 「無印のカタログみたい」


 基本的に物は少ない。本の類いは実家に置いてきた。

 無印良品のカタログ。
 言われてみるとそうかもしれないな、と思った。


 「ありがとう」


 何となく嬉しかったので、感謝した。


 ◇


 今日出された数学の課題に手を付けていると、気づけば夕食はが完成していた。
 サラダとステーキとポタージュスープ。パン。
 ちゃっかり市川の分があるのが気になったが、目を伏せてやることにした。


 「いただきまーす!……ってもう食ってるし」
 「あ? あぁ、いただきます」


 ステーキには付け合わせの野菜も添えられている。


 「美味っ! 何コレ美味い!」
 「………自分で言うな」
 「いや違うって素材がいいんだってコレ」


 まあそれは否定しないが。


 ステーキには黒胡椒のみの味つけがされている。肉の良さを活かすために凝った味つけはしなかったのだろう。


 「木崎、………どう、かな」


 お前は彼女か。


 「悪くない」


 可哀想なので褒めてやることにした。




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