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古賀学園の寮は七階建てだ。
一階はフロントやカフェテリアがあり、二階は特待生専用フロア。三階に食堂があり、四階から上は一般生徒のフロアになる。
僕は編入試験を満点で合格したため、特別待遇生徒として二階で暮らしている。
特待生には成績優秀者の他、学業以外にも忙しい生徒会や風紀委員が選ばれる。
二階は特待生しか入れず、エレベーターも専用。食堂も専用。オマケに陽が暮れるまで作業をしているという生徒会や風紀委員のために、南北の校舎との連絡通路まで設けられている。つまり学園直結フロアだ。
僕は迎賓室から南連絡通路を通り、カードキーで寮の敷地へ戻った。
すると、部屋の前にワカメが落ちていた。
「木崎!」
市川だった。
「木崎、ありがとう。あの、眼鏡のこと、謝りたくて……」
床に座っていた市川は、わざわざ立ち上がってモジモジし始めた。
僕は「第一学年の木崎 龍馬の部屋の前にワカメが落ちていましたよ」という噂が立たないか、そして以前携帯電話に「モジモジ」と打ち込んだ時、予測変換に「モジモジハンター」という言葉が出てきたということを考えていた。勿論後者に意味はない。
「弁償するよ! 眼鏡」
「弁償出来るのか?」
「え?」
「念のため言うが、高いぞ」
屋上での出来事を自分なりに詫びたいのだろう市川は、「でも、でも」と戸惑いながらしかし食い下がる。
だがそこにいられては部屋に入れないので、「邪魔」と市川を退けた。
ピ、と音がして、部屋のロックが外れた。
これがクレジットカードにもなっているのだから便利だな、と僕は最新のテクノロジーに感動した。
今のロックが外れた音は、文明開化の音だったのだ。そうに違いない。
「入れよ市川」
未だぼんやり立ち尽くしている市川に声を掛けると、のろのろと顔を上げた。
引き上げられるワカメ。
「料理くらい作れるだろ? 眼鏡が買えないなら、せいぜい誠意でも見せてくれ」
そう言うと市川は、前髪に覆われた眼鏡の奥で笑った。
バカなやつ。
「ありがと、木崎」
僕は市川を部屋に招き入れた。
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