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 常に笑っているのに、その奥がどす黒く蠢いているような悪寒を感じる。自分の翳(カゲ)りは覆い隠しているくせに、他人のことは見透かしているような眼で見ている。その冷たさは、まるで爬虫類のような無機質なものだった。
 歪んでいる。
 委員長に対してそんな感情を抱くほどに、僕は自分自身を見透かされている気になる。委員長にではなくて、自分自身に、見透かされている気になるのだ。それは委員長の「そういった部分」に対して少なからずの自己投影をしているということであり、そんな自分に嫌気が差す。そしてまた、委員長への拒絶反応を起こすのだ。


 「じゃあお前ら、空腹で機嫌悪い猛獣の口を無理やりこじ開けて餌やったり出来るのか?」


 ふと見ると、フード班に配属された市川がクラスメイト相手に熱弁を奮っていた。途中、ムツゴロウだの何だのと不愉快な単語が耳に入り眉を寄せる。

 その拍子に、市川が勢いよくこちらを振り向いた。


 「………誰が猛獣だって?」
 「あーはははは、えーっとこれはその」


 どうしてこんなときだけ勘が働くのか。


 「………機嫌が悪いのは確かだ。迷惑を掛けているのは謝る。が、治りそうもないから放っておいてくれ」


 何だか疲れた僕は、再び机と至近距離で対面することにした。カロリーメイトは依然としてそこにある。もう食べてしまおうか、という考えが頭をよぎるも、今度は胃が食物を欲していなかった。


 「まあ、俺は市川とは無関係だから大丈夫だよ」


 弾むような、飄々とした声が、笑いを含むような調子で言う。


 「………どうだか」
 「少なくとも巻き込む気はない。市川が"こっち"に巻き込まれに来たときは、保証出来ないけど」
 「全力で止めろ」
 「木崎がどこまで知ってるか知らないけど、それは無理だな」


 そのとき、教室の隅から委員長を呼ぶ声がした。インテリア班のリーダーが、手招きをしている。快く応じた委員長はそちらへ向かい、数歩進んだ地点で足を止め振り返る。


 「俺が止めるのは、佐原だけだよ」


 とにかくそれは食べてよ。俺、木崎のことも気に入ってるから。
 カロリーメイトを指して微笑み、今度こそ委員長は声の方向へと歩いていった。


 「……誰だよ」


 残された僕の声は、独り言として賑わう教室に消えた。





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