近距離の
「活動停止、か」
ひとりごちるように、晴一は呟いた。
今日の夕飯は、僕の希望により肉豆腐。先ほどから出汁の匂いがリビングまで漂ってくる。ちらりと見れば、土鍋に白滝を投入しているところだった。
もうすぐ完成か。眼鏡を外してテーブルに置き、目を瞑った。最近、度が合わなくなってきたような気がする。眼鏡を掛けているとすぐに疲れてしまう。二三、瞬きをして目薬を差した。
「初めてかも」
「そうなのか?」
ゴロゴロと眼球を転がすように動かすと、眼に薬が沁み渡って行くような気がする。目薬を差したあとに瞬きをするのはよくない、とはどこで聞いた話だっただろう。
「テストだ何だっつっても、召喚されてたからな。無理やり」
ぱちりと目を開くと、鰹節をぱらぱらと鍋に入れる晴一が見える。リビングは億劫がった僕によって電気が点いていないため薄暗く、灯りの点るキッチンはぽっと浮いて見える。
確かに今までのテスト期間中も、何だかんだと迎賓室に皆集まっていたように思う。なのでやはり、今回のことは異例なのだろう。
「うちもクラスの準備あるから、夕飯の時間合わないかもな」
「晴一は何をするんだ?」
「ん。多分キッチン入る」
手にしたクッションを投げてやろうかと思ったが、夕食がルームサービスになるのは空しいので、止めた。代わりににぎにぎと圧力をかけつつソファに倒れ込む。このクッションは餅のような手触りで、僕は気に入っている。
「ってわけで帰り遅いから。しばらく学食で食えよ、待つの嫌だろ?」
ぴたりと、手の動きを止めた。
じゅう、と水分の一気に蒸発する音が聞こえる。匂いが一気に流れてくる。
「何ならこの機会だし。料理勉強するか?」
笑いながら言う晴一に殺意が芽生えた。
「…………いやだ」
膝を折り曲げた形で、ぎゅっとクッションを抱きしめる。
僕は一生、料理なんて出来なくて、いい。
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