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 ◇


 その日の放課後。

 迎賓室の扉を開けると、夕陽が差して目が眩んだ。扉の向かい側に窓があるため、時折不意打ちの攻撃を受けることがある。
 窓の外を眺めていたらしい嘉之先輩が、「木崎か」とこちらを向いた。逆光で、顔に影が掛かっている。


 「他の先輩方は……」
 「晴一は知らないが、後の二人はクラスの催しで揉めている。噂に寄れば、チカと近江が対立しているそうだ」


 その姿は容易に想像することが出来た。

 チカ先輩が不在のため、隣室に移動してモニターの監視をする。とは言っても、あるカメラの拾う音が一定のdBを超えたとき、その画面は自動的に大きく映し出されるようになっている。なので、ある程度は目を離していても問題はない。


 「嘉之先輩は何をするんですか?」


 何の気なし、ちょっとした話題提供のつもりで発した言葉に返答がなく、僕は不思議に思って手にした本から顔を上げた。
 するとモニタリング室の入口に、絶望したような表情の先輩がいて、僕はぎょっとする。


 「嘉之先輩? 顔色が悪いです」
 「ホストだ」
 「はい?」
 「ホスト」


 ホスト。
 自分の中でその単語を反芻し、ようやく意味を理解した。

 気の毒に思う僕の視線に気づいたらしい嘉之先輩は、盛大なため息を吐いた。


 「西園寺の提案だ。自分の美貌と商才を活かすにはと尤もらしいことを言って担任を納得させた。俺も巻き添えだ」
 「………ご愁傷様です」
 「俺はあの美作が、俺に縋るような目を向けたのを初めて見た」
 「…………」


 よほど嫌だったのだろう。というか、通常に考えて嫌だろう。僕は同情したが、「メイド喫茶と交換しますか?」と言ったところで、美作副会長は断るような気がした。


 「そうだ、皆が集まってから言おうと思っていたが、先に言っておこう」


 「どうせチカも環も遅くなるだろうしな」と嘉之先輩は続ける。


 「風紀委員会は学園祭一週間前まで、活動を停止することにした」
 「え?」
 「どうせ放課後は時間を取られるからな。こいつのみでの活動だ」


 そう言って、嘉之先輩は左耳の蛇を指で叩く。


 「学園祭当日の動きについては、生徒会及び実行委員会からすべての書類が到着した時点で決定する。どうせ今ある資料を元に予定を組んでも、ギリギリで変えてくるのが西園寺だ。二度手間になるくらいならこの方がいい」


 確かに一理ある意見だ。
 しかし、そんな直前まで延ばすやり方では、学園祭一週間前の激務は免れないだろう。何か出来そうなことがあるなら今のうちに手をつけては、と提案するも、「それは駄目だ」と却下されてしまった。


 「本当に、西園寺は侮れない。こちらがいくら綿密な計画を立てても、当初の予定を根本から変えてくるような奴だ。卵焼きを作ると言っていたはずなのに、次会ったときは鶏の世話をし出すような奴だ」
 「それは………」


 どうやら事前の計画は水泡と化すことになりそうだった。





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