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◇
南校舎三階の迎賓室に着くと、何故かチカ先輩に歓迎された。
「流石はキサキ君。風紀委員の期待の星!」
だから入ってません。
チカ先輩は学園内あちこちに監視カメラを仕掛けていて、先ほどの僕の動きを見ていたらしい。
昨日の西園寺会長と市川の衝突をいち早く発見し対応出来たのも、そのカメラで監視していたからだと言う。
昨日チカ先輩が消えた扉の向こうは、モニタリング室になっていた。
「屋上もばっちり監視されてるよ。ナイス、キサキ君。お手柄」
モニタリング室には小型のモニターが100近く設置されている。
数秒毎に映像は変わり、学園内あちこちをリアルタイムで映し出す。
モニターの明かり以外に光がなく、目が慣れない。
「そこで問題が発生した」
桐生先輩がモニタリング室の入口に立っているのが、かろうじて分かった。
おい晴一、と桐生先輩が呼ぶと、迎賓室にいた桜庭先輩の足音がする。
「生徒会親衛隊が市川 晶を狙っている」
ようやく目が慣れてきた。
桐生先輩は腕を組み、ため息を吐いた。
「市川を親衛隊から擁護しなくてはいけない。が、しかし親衛隊は生徒会が絡むとなれば、俺たちの説得を聞く耳も持たないだろう」
「司を説得した方が早ぇだろ」
「………じゃあお前がやるか?晴一」
桜庭先輩の返答はない。
西園寺会長を説得するより、猿に芸を教える方がまだ簡単なのだろう。短時間しか会長に接触していない僕でも、それは想像に容易い。
「とりあえず、木崎は市川が一人にならないように……」
「いや僕は風紀じゃないんで」
何故巻き込む。
「困るよキサキ君。内部情報知りすぎてるし」
「僕も困っています」
「木崎は優秀な人材だ。是非風紀委員に入ってほしい」
桐生先輩が言う。
三人の視線が僕にぶつかる。
そんなことを言われても、僕は平和に三年間を過ごしたいのだ。
入学して四日目で、こんな目立つ組織に入るだなんて。
"名字を偽る"意味がない。
「どのみちお前は風紀と関わる」
桜庭先輩の言葉の意味が分からず、「何故ですか」と問うた。
「司に目ぇつけられた以上、親衛隊からの攻撃も避けられねぇよ」
「そういえば屋上でも親衛隊隊長と派手にやらかしたな」
「キサキ君フルボッコだね」
屋上での気まぐれ。
それがこんな結末を生むとは。
「風紀委員になれば、それなりのネームバリューはある。風紀というだけで親衛隊は手を出せない」
「………考えておきます」
考えることなどないのに。
僕はそのまま、迎賓室を後にした。
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