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市川の失言によって、また騒ぎが別方向へと発展していく。
五月蝿いから止めろと委員長にアイコンタクトを取ると、素知らぬ顔で目を逸らされてしまう。今ここに銃器があれば、委員長を蜂の巣にしていただろうと思いながら、僕は市川へ助け舟を出してやることにした。
「そこまで凝ったものでなくていい。校内で愉しむ小規模なイベントと思えばいいだろう。チープなくらいが丁度いいんじゃないか」
「たとえば?」
市川と争っていた生徒が、やや拗ねたような顔でこちらを向いた。「そうだな」と、近づいて顎を掬った。確か彼の名前は、千原(チハラ)という。
「千原は可愛いから、メイド喫茶なんてやれば客も集まるんじゃないか?」
「………え」
「木崎ィ!?」
適当に黙らせるつもりだったのに、何故か教室が騒がしくなってしまった。
ふらりと倒れる千原に、「史乃ちゃん!」と群がるクラスメイトたち。呆然とする市川に存外だと視線を寄越せば、教室の隅から「……最低」と有坂の声がした。納得がいかない。
「はぁい、そろそろ落ちつこっか」
委員長がパン、と手を叩けば、教室のざわめきは幾分か落ち着いた。皆教壇を見上げ、彼の発言を待つ。手一つで収まるのなら、最初からそうしてほしかったと思う。
「まず木崎、Sクラスはクラス内恋愛をあまり推奨していない。別れた後の空気が悪いから。駄目とは言わないけれど、自分から仕掛けていくのは自粛するように」
「………どうしてそうなる」
「そしてめぐ、最低とか言わない。で、ちゃんとクラス会議には参加するように」
「事実じゃん。ていうか面倒臭いし」
「後で何をすることになっても文句は言わせないよ。それと市川、何か言いたいことがあるなら聞こうか」
「だって委員長可笑しいもの!!」
それまで黙っていた市川は、ぎゃああと叫ぶと僕を指差した。
「市川。人を指差すな」
「やかましいわ! ていうかメイド喫茶って何!?」
「僕の中学で採用された案だ」
「だって男子校だよ!? 誰が得するんだよ!!」
「それは謝罪する」
思いつきで言ったまでだ。
市川の発言に、千原に寄り添うようにしていた生徒が、「ちょっと史乃ちゃんがメイド服似合わないっていうの!?」と市川に反発した。また騒ぎが勃発するのか。
「はいそこ、場外乱闘は厳禁」
再び委員長が言うと、意外にも大人しくなる。
騒ぎは防ぐも、「それに!」と市川は続ける。まだあるというのか。
「何だ」
「仮にだよ! ネタとして男子校でメイド服がアリだとしても、木崎がそんな発言するなんてありえない!!」
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