出し物は
学園祭のクラステーマ会議に、僕は真面目に参加しなかった。
「お祭りでしょ?」
「金魚すくいとかは?」
「寮ってペット禁止じゃん」
「じゃあ水族館は!? 僕のお父さん、今南米に出張に出てるから、珍しい魚とか輸送してもらえるよ!」
「水族館なら動物園の方がよくないか? 魚だけだとつまんないし」
「いっそ遊園地みたいにするか!」
馬鹿げているからである。
国内でもトップレベルの難関校、古賀学園の栄えある進学クラスのメンバーが、ここまで馬鹿だとは思っていなかった。いっそ清々しいくらいだ。準備期間が一月ほどしかないというのに、何故校庭にジェットコースターを製作するという発想に至れるのだろうか。
「……授業はどうなってるんだ?」
僕と同じくやる気がないのか、ファッション雑誌を捲る有坂に問うと、彼は視線だけをこちらに寄越す。
「午前授業だって。午後からは学園祭の準備期間に充てるらしいよ」
急な行事のために、そんな前倒しなスケジュールで大丈夫なのだろうか。
僕は大規模な心配をしたが、学園の授業は元より進んでいるため、法律上は問題ないのだろうと気にしないことに決めた。
「だーかーら! 祭りって言ってんじゃん!!」
教室の真ん中で叫んでいるのは、我らが庶民代表・市川である。「学園祭」の何たるかを知らないクラスメイトに、先ほどから懸命に説明を繰り返している。
「水族館とかそういうのじゃなくて、たこ焼き屋とか、綿あめとか、そういう素朴な感じの……」
「庶民っぽい感じ?」
「えー……思いつかねぇ」
「駄菓子屋とか?」
「あ、銭湯は!?」
「いいかも! 牛乳とか売ろうよ!!」
きゃいきゃい盛り上がるクラスメイトに、「……もういや」と市川は倒れ込んだ。
教壇で指揮を執る委員長はニコニコと笑っているだけで手を差し伸べようとしないし、教師である鳴海先生は「いいから早く決めろよー」と他人事である。
「いやもっと普通な感じの! 大体どうやってお湯引くんだよ。教室でやったら水はけ悪すぎだろ」
「そっかー」
「じゃあ何がいいのー!」
市川の真っ当な意見を「文句が多い!」と言い切った理不尽なクラスメイトは、逆にその市川に意見を求めているようだ。
僕は手にしていた本を捲った。
「たとえばー……えっと、木崎の中学って何やってた!?」
やはり僕に話を振るのか、お前は。
市川の突然な振りに、長引くことを覚悟した僕は本に栞を挟む。
「記憶にないな」
「何かあっただろ! ていうか助けてよ、俺が説明しても何か変な案しか出ないんだもん」
「ちょっと変な案ってどういうこと!?」
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