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 「俺個人で言うなら、普段生徒会とかでクラスにも馴染めてないし。……それに、学年関係なく楽しめるし。外部の人も呼ぶなら、いい機会だと思う。うん。チームワークとか出来るし」


 相変わらず日本語の出来てない奴。

 それでも、少なくともこの空間にいる人間には、何となく言いたいことが伝わったらしい。言葉になっていない部分が伝わったのだろう、きっと。要するにそれは市川の「馬鹿」の部分なのだが、馬鹿も個性の一つだ。悪くないだろう。


 「……だそうです。いいんじゃないですか、嘉之先輩」
 「木崎、」
 「理事長が許可したのなら撤回は不可能でしょう」


 あの叔父が首を縦に振るなど、基本的にはありえない。他人の願いは極力聞かない人種だからだ。
 その叔父が承諾した案を、別の生徒から「取り消せ」と言われれば、どうせろくなことは起こらない。「私が出した認可を取り消せとは、どういう了見か話を聞こうじゃないか」と威圧的に言い放つ姿が、容易に想像できる。


 「では、風紀は当日の校内巡回のみ参加しますから。後は頼みます」
 「任せろ」
 「いえ任せるも何も生徒会の仕事です」
 「………お前可愛くねぇな」
 「結構です」


 先ほども似たようなことを言われたような気がした。

 苦笑する西園寺会長に礼をして、席を立った。


 「………面倒事を引き受けるのが得意だな、木崎は」


 迎賓室へ戻る帰り道。
 降ってきた嘉之先輩の苦言に、思わず笑ってしまう。


 「僕そのものが面倒事ではありませんか。何を今さら」
 「………自分で言うか、普通」
 「そろそろ協力体制に入ってもいいのではないかと思ったんです」


 書類をひらひらと動かしながら言うと、背後のチカ先輩が「何がだい」と問うた。


 「生徒会と風紀委員会ですよ。僕には何の因縁があるかは分かりませんが、そろそろ平和協定を結んでもいいのではないかと思いまして」


 過去に何があったかは知らないが、現状はそう悪くない。ならば今後は手を組んだ方が得策なのではないだろうか。


 「………去年の会長を知らないから言えるんだ」


 嘉之先輩は苦々しげに言った。
 やはり怨恨は深いのか。「そうですか」と笑うと、チカ先輩は「笑い事じゃないよ」と顔を歪めた。


 「一度会えば分かるさ。そしてあの会長のルーツを少なからず辿っている今の会長を、憎まずにはいられないね」


 環先輩はひとり前を歩きながら、ティーカップを傾ける。それは生徒会室の備品ではないのだろうか、勝手に持ち出してもよいのだろうかと思ったが、言っても無駄だと知っているため、僕は黙っていることにした。


 「対面の機会があれば、是非」


 僕が言うと、晴一が視線を逸らした。
 意味深な態度に問いかけようと口を開くも、それはチカ先輩の声で遮られる。


 「あれは非道かった」





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あきゅろす。
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