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「今のってもしかして……」
「……ってことは古賀家から誰か来てるんじゃない!?」
中性的なその少年に見惚れていた周りの女性が、キャアキャアと黄色い声を上げながら、階段を足早に下って行った。
………何となく、学園のチワワたちを彷彿とさせる。彼女たちがあぁも色めき立っているということは、あの少年も、やんごとなき家柄の人間なのかもしれない。
何か、疲れた。
この人ごみに酔ったのかもしれない。
あちこちで、ダブルのスーツを着た男性が名刺を交換し合う姿がある。メインの「実里様」は中央のステージにいるというのに。
こうも人間の欲というか何というか、そう言ったものがむき出しになっていると、疲労も出てくるよな。こういうのは、あまり好きじゃない。
実里様、と呼ばれたその女の子は、まだ俺と変わらないくらいの年齢だった。
黒い髪をふわふわに巻いて、淡いピンクのドレスを着て中央に座っている。時折笑うその顔は本当に女の子らしくて可愛くて、人形のようだと思う。
そのすぐ隣に、司の姿を見つけた。実里さんと司と、もう一人。年齢的にも距離的にも、あれは実里さんの父親なんじゃないかと想像する。
「ごめんね、アキちゃん。随分足止めされちゃった」
急に声を掛けられて、はっと顔を上げた。
先ほどぶりのエレナさんが、今度はドレス姿で登場した。黒のシフォンが幾重にも重ねられたミニドレス。モデルを作る側の人間も、本人がモデル級ならここまで美しいのか。
「いえ、大丈夫です」
「そう。誰かといたの?」
「え?」
聞き返すと、エレナさんは向かいの席にある皿を指した。
俺は先ほどの「倉科様」の話をする。エレナさんは聞きながら目を丸くしたり眉を寄せたり。そして聞き終えて一言、
「倉科の次男は男色で有名なのよ」
にやっと笑うエレナさん。
俺は笑えずにぞわっとした。本気で狙われてたのか………マジで勘弁してほしい。普通に怖い。
「周りの人間も、こんなパーティどうでもいいと思ってるのよ」
頬杖を突き、階下に視線を送るエレナさん。
その先を辿ろうとすると、その目がこちらを向いていて、俺は慌てて逸らす。
「実の父親でさえ、本気で娘の誕生パーティを盛大に開こうなんて思っちゃいないわ」
「……そんな」
「自分の財力を見せつけることと、ビジネスの拡大。そのための餌なのよ、金を持つ人間は皆そう」
ふわふわと笑う、砂糖菓子みたいな女の子。
遠目からしか見てはいないものの、俺は大高坂 実里という人間に、そんな印象を抱いた。その子を「餌」と言い切るエレナさん。その表現はきっと間違ってはいないのだろう。彼女のイメージと現実との乖離に、どこかショックを受けている自分がいる。
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