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 何だよ風紀かよ、と残念そうに言う生徒会長は、デスクに脚を乗せた。

 短く切り上げられた、赤みがかった茶色い髪。長い手足。そして獰猛な獣の目付き。
 学園のトップに相応しい容姿の西園寺会長は、まじまじと僕の顔を見た。


 「ツラはいいし頭はいいし? 早いとこ確保しときゃ良かったわ」


 だから僕は風紀ではない。


 そこに美作副会長が紅茶を用意してくれたので、僕は否定する機会を失った。
 しかし代わりに手に入れたものはあまりに大きく、僕は「ありがとうございます」と素直に戴いた。

 今日は眼鏡じゃないんだね、とか、風紀委員は愉しい?とか、色々と声を掛けられ、僕は一緒に出されたチーズケーキを貪り、アップルティとチーズケーキの組み合わせに感動した。

 どうやら生徒会では人手が足りないらしく、会長は桜庭先輩に愚痴を溢している。


 「近江と大倉はどーしたんだよ」
 「ぁ?消えた」
 「呼び戻せよ」
 「めんどい。つーかマジで木崎お前、生徒会入れよ」


 アップルティを啜っていると、西園寺会長から指名が入った。


 「マジでやめろって司。いま手ぇ放したら俺がチカに殺される」
 「勝手に死ねよ。今なら俺様が抱いてやるぜ?」


 僕は躊躇いなくフォークを会長の方に投げ遣った。


 「あ、すみません手が滑りました」


 フォークはデスクに乗った資料に突き刺さったようだ。
 会長の脚まであと数センチ。

 惜しいな。


 「今度は眼球狙いますから」


 ◇


 桜庭先輩に無理やり立たされた僕は、引き摺られるようにして生徒会室を後にした。
 美作副会長には礼をしたが、美味しいチーズケーキを完食することは敵わなかった。非常に悔やまれる。


 「なぁ木崎」


 生徒会室を出るとき、西園寺会長は先ほどとは違う真剣な眼差しで僕を呼んだ。


 「お前、兄弟とか従兄弟、いるか?」


 妹がいます、と答えたところで、桜庭先輩に背中を押され生徒会室から転がり出た。

 後に続く桜庭先輩は「誰でも引っ掻けんなバカ!」と生徒会室のドアを思いっきり閉め、


 「おいお前、司に近付くなよ」


 何故か忠告された。


 「はぁ、近付くと親衛隊が怖いようなので」
 「違ぇよ。それもあるけどお前、狙われてる」
 「はい?」
 「司にだよ」


 槍でも飛んでくるというだろうか。
 フォークを飛ばしたのはちょっとした戯れなのだが、まさか本気で来られるとは。

 桜庭先輩は「何で今日に限って眼鏡掛けてねぇんだよ」とため息を吐いた。


 「さっき割れました」
 「……まあいい。お前、眼鏡外すと似てんだよ」
 「え?」
 「司の探してるヤツに」


 昨日の西園寺会長と市川の衝突は、根本に西園寺会長の機嫌の悪さがあるという。


 西園寺会長には探している人がいる。
 夜の街では有名な少年は、ある日忽然と姿を消した。

 探せど探せど彼は現れない。


 「そこに市川がぶつかって、……何言ったか知らねぇけど、あいつの神経逆撫でしたんだよ。お前、月兎に似てる」
 「ゲット?」
 「そのガキの通り名。月みたいな金髪だから、月ウサギだ。眼鏡外したお前は月兎に似てる。親衛隊に狙われたくなけりゃ明日から気を付けろよ」




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あきゅろす。
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