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いざ候
 
  
 「大高坂(オオタカサカ)家は、西園寺と古い付き合いでね」


 白いシャツを俺に当て、エレナさんは「うーん」と首を傾げる。


 「はぁ」
 「ビジネス上の提携は勿論あるんだけど、祖父の代がビジネス抜きにしても仲が良かったのよ」


 次にまた別の白いシャツを当て、「駄目ね」と眉を顰めた。


 「はぁ」
 「それ以来、家ぐるみで何かと呼びつけられるの。父に司はともかく、西園寺グループと直接の関わりがない私まで」


 そう言いながら、三枚目のシャツをあてがわれた。さっきのシャツと何ら変わらないように思えるのだけれど、エレナさんはようやく納得がいったらしい。

 部屋ひとつ、まるまるクローゼット。

 そんな空間に、場違いな俺は突っ立っている。
 どうやらブランドのVIPルームと呼ばれる場所であるらしいことに、俺は薄々気づいていた。だって店に入るなり「お待ちしておりました西園寺様」と言われ、奥にあるこの部屋に連れて来られ、飲み物を出され、とにかく厚待遇。普通の服屋で、ここまで至れり尽くせりされたこと、俺は一度もない。


 「今回も、次女の誕生祝賀会にわざわざ私たちまで呼びつけられてるのよ。どうでもいいっつうの、祝いの気持ちなんてミジンコほどもないわ」
 「あの、俺は更にどうでもいいんですけど」
 「あ、この色似合うわね」


 俺のせめてもの抵抗はあっさりスルー。いつの間にかネクタイまで決められていた。


 「ジャケットは如何なさいますか」


 脇で待機していた初老の男性―――マヌカンさんが、丁度良すぎるタイミングでエレナさんにそっと告げる。


 「そうね。シングル三つボタンの定番でいいわ」
 「お客様は細身でいらっしゃいますから、もしかすると肩幅が合わないかと………」
 「襟が合えば補正は効くわ。とにかく、一番合いそうなサイズを持って来て下さい」
 「畏まりました」


 ファッション雑誌の編集という職業柄か、センスはかなりのもの。
 白のシャツに深いブルーのネクタイ、ストライプの細身なパンツ。組み合わせは普通なのに、俺の白金の髪や肌にしっくり合っている。


 「………ていうか俺、お金ないんですけど」
 「あら。私が連れてきたんだから私が払うわよ」
 「え!?」


 こっそりと見た値札の、ゼロの数を思い出す。


 「いやいやいや! そんなわけにいかないです!!」
 「何言ってるの。まさか二着で三万円、なんていうスーツで大高坂のパーティに出向く気? あそこの家は服装に煩いのよ」


 じゃあ俺行かなくていいです、なんて今更言えない。言えるわけがない。怖い。
 つくづく自分の巻き込まれ型が嫌になる。巻き込まれてる、というよりは、巻き込まれに行ってるんだろうな、無意識でも意識的にでも。




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あきゅろす。
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