--03 慌てて取ったからか、その拍子に味噌汁が撥ねてお椀から零れ落ちる。 「あ、わ、ぅわっ!」 今さら焦っても、時すでに遅し。 テーブルに乗っていた単語帳には、味噌汁の染みが点々とついてしまった。お絞りで叩いてみても取れそうにはない。 「あーあ」 「うわー……司から借りたのに」 「司、って西園寺会長?」 「そー。どうしよ、返すとき因縁つけられたら」 落とし前だとか何だとか、適当なこと言って何かしら請求してくる可能性はゼロではない。 「その単語帳売り払って弁償すればいいじゃん」 「え。何それ」 「"西園寺会長の単語帳(市川晶の飲んでた味噌汁の染み付き)"でしょ? この学園の生徒だもん、倍は余裕だよ」 「倍って……値段が?」 「値段以外に何が倍になるの」 「デスヨネー」 うん、あんまり考えたくなかっただけなんだけどさ。 売り払って小遣いにしてもいいのだけれど、それじゃあ俺のテスト勉強がはかどらない。とりあえず乾燥させて、それでも消えなかったら謝るしかないか。少し前の自分の言動を悔み、はぁとため息を吐く。 紛らわすためにぱたぱたと単語帳を仰いでみると、 「あれ」 はらりと、間から何かが舞い落ちた。 「進路調査書、だって」 「え? 俺のじゃないけど」 俺の進路調査書は、この前木崎に貸して以来返って来ない。 うっかり水没させたらしく、コピーを取るために貸したけれど、まさか返してくれないとかないよな。な。 「じゃあこれ、西園寺会長のじゃないの?」 「え」 だって西園寺会長から借りたんでしょ、と有坂。 確かにこの単語帳は司から借りたけど、まさか俺に貸すものに挟んどく、ってことはないだろー……いや、でも司以外に考えようがない。充分ありえる。 「提出期限、テスト明けまでじゃん」 「届けた方がいいかなー……」 「いいと思うけど。ていうか何その態度」 「面倒臭い」 「会長ファンが聞いたら怒り狂うだろうね」 はい、と有坂から返された進路調査書。 うぅん、と俺は唸った。 [←][→] [戻る] |