つかのまの
「やっぱ生徒会の役員はエリート揃いって感じだね」
有坂はうんうんと頷きながら、サラダの上に乗ったトマトをひょいとボウルの端に避けた。
テスト期間中、Sクラスの生徒は、自宅学習を選択することも出来る。その方が効率のいいと感じる生徒がいるかららしい。実際教室を選んだところで勉強は自主的に行い、困ったとき先生(この場合、鳴海)に質問出来るというシステムになっているから、やることはあまり変わらない。
俺は集中力なんて元々あってないようなものだし、部屋で一人こもっているよりは、分からなくなったとき周りに聞ける教室の方が合っている。だからテスト期間も普段と変わらず登校している。教室を選ぶ生徒は、クラスの半数くらいだ。後の半分は自室を選んだらしい。木崎もやはりというか、自室での勉強を選んだようで、俺の隣は空席。有坂がいたから、話し相手には困らなかったけれど。
「やっぱり、って何だよ」
「知らないの? 去年まで役員は顔と家柄で選ばれてたようなものなんだよ」
「あぁ……確か上ノ宮先輩が言ってたような気がする」
「知ってるんじゃん。だから、去年までに輩出された役員は、顔良し頭良し家柄良し、なわけ」
「悪かったですねー庶民で」
まあ顔だけはいいんじゃない? と言う毒舌有坂。
何となく釈然としない思いで、俺も目の前にある焼肉定食に箸をつけた。
「反対に風紀委員は完全に内面重視。家柄とかは並レベルだったりするんだけど、個人個人の能力が高いから、進路はなかなかのモノらしいよ」
「へーえ」
「今の委員長は親が弁護士だし、美作先輩はあの美作の跡取りでしょ。桜庭先輩はあの見た目だけど家系は由緒あるものだし」
「そうなんだ」
「明治くらいから続いてるんだったかな。で、上ノ宮先輩は…………製薬会社の研究チーム。でも"上ノ宮"って言えば裏じゃ超有名」
「有名……って、何。黒い?」
「うーん……そういうのじゃないんだけど。まあ有名」
「つーか有坂詳しすぎ」
「この学園にいたら詳しくもなるよ」
気だるげに言う有坂の横を、上級生が通り過ぎて行った。こんにちは有坂君、と挨拶をする先輩に、有坂は気のない態度で応じる。
「目立ちたくなきゃ大人しくしないといけないわけ。そのためには目立つ存在を避けて通るのが賢いし、目立つ存在を把握しておけばある程度回避出来るから」
「………そういうもん?」
「そういうもの」
慣れた風な有坂の態度に、俺は複雑な気持ちになる。
それが顔に出ていたのか、「何その顔」と有坂は思いっきり眉をしかめた。
「今さらそこまで気にしてないし。ていうか、気にしてたら市川と木崎になんか近寄らないから」
「………うっ」
ふふん、と鼻で笑う有坂に、それでももしかしたらフォローされてるのかもしれない、と気づく。
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