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急に低音の声が響いた。
「司」
「つーくん遅かったねえ」
プリントの束でパタパタと風を送りながら、司は俺の紅茶をひょいと掴んで一気に飲んだ。
「あっ! てめぇ」
「理事会行ってきた。理事長の秘書マジで使えねぇ、水くらい出せっつーの」
たかが生徒に、あの理事長が水なんて出さないだろ。俺、書類投げられたぞ。
司はそのプリントを「マル秘」と言って紫先輩に差し出した。紫先輩は紫先輩で、「お疲れ様」と笑顔で受け取る。
「何それ」
「マル秘書類」
「それくらい分かるっつーの」
「特に風紀にバレるとまずい。っつーわけでお前らには教えねぇ」
「何でーつーくん!!」
「………ずるい、会長」
「晶は木崎と繋がってるし、響と悠仁は上ノ宮に脅されたら吐くだろ。絶対」
面倒臭そうに言う司に、二人はうっと詰まった。
確かに俺も、木崎に凄まれたら吐かずにはいられない………かも。
「風紀はとりあえず書類押しつけて足止めしてるから、テスト明けまでは逃げ切れるだろ」
「………僕、知らないから」
俺達部外者にはまったく分からない会話を交わす司と紫先輩。
ただ分かるのは、また風紀委員会に迷惑を掛けているらしいこと、そしてまた上ノ宮先輩が乗り込んでくる可能性が大いにあるということだ。おい、何かあっても俺達は巻き込むなよ司。
「っつーわけで今日は解散。それぞれテスト勉強に没頭しろ」
「いえっさー!」
「………うい」
意外と切り替えが早い(慣れなのか、諦めなのか)二年生二人組が、各々右手を挙げて応えた。
一週間後、中間テストが行われる。それまでは前回同様、生徒会活動も休止。そういえば前回は、司に勉強を見てもらったんだった。
「今回は俺も本気出すから」
「へっ!? ぅぎっ………ぃやあああ!!」
ぼんやりしていたら、目の前に司の顔があった。
慌てて思いっきり顔を後ろに逸らし、グキリと首が痛み、前に思いっきり戻ってきたところで司のどアップに遭遇して叫ぶ。「るせぇよ」と言われても、これは司が悪い。俺は悪くない。
「いきなり顔覗き込むな!」
「今さらだろ。っつーわけでこれ、やる」
「でっ!」
べし、と頭を重量のある何かで叩かれ、反射的に目を瞑った。
次にそっと開いたとき、目の前にあったのは。
「……本?」
「単語帳。英語の担当、岸元だろ? あいつスペルミスしやすい英単語ばっかテストに出してくるから。お前、英単語弱いし」
「…………」
じゃな、と次は優しく頭を撫でられる。
ばさりと頭の上から落ちてきた本を手で受け止め、俺はしばしぼんやりと、司のいなくなった場所を眺めていた。
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