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 写真に映るその人は、確かに二人が述べた特徴に当てはまる人物なのだろう。疎ましげに眉を寄せるチカ先輩と、真顔でピースサインをする環先輩――二人とも今より少しだけ幼い――の真ん中で二人の肩を掴み、屈託なく笑うその人。他人の迷惑というものを省みないのだろう。チカ先輩の表情など気にする風でもない。

 焦げ茶色の髪は耳に掛かる程度に伸び、同色の瞳が印象的。狐を想起させる人物だ。
 憚りながら、この学園によくいる「美形」と呼べる類の顔ではない。だが愛嬌のある笑顔は犬のようで、見ているこちらも思わず笑みを漏らしてしまいそうになる。


 「……つーか何で写真あんだよ」
 「確か卒業式の日に言っていたな」
 「何をですか?」


 顔をしかめた桐生先輩は、うっと息を詰め言葉を吐き出す。


 「"素晴らしき風紀委員長を、俺という存在を忘れないでくれ!"」
 「……………」
 「田中先輩が置いてったな、確実に」


 他にもお茶を口にしている桐生先輩や、料理中の晴一(この頃から炊事要員だったようだ)、自分にカメラを向け撮影したであろう写真が何枚も何枚も出てくる。撮影場所は、大抵がこの迎賓室である。

 その中で、また見慣れない姿をみとめ、僕は手を止めた。


 「これは?」
 「俺たちが第一のときの第三」


 先ほどの田中先輩を中心に、二人の人物が立っている。
 一人は黒色の短髪を無造作に散らした、爽やかな人だ。濃い顔立ちもくどくはなく、むしろ運動部でいい汗を掻いています、といった風貌だ。スポーツドリンクとタオルを合成させても違和感はない。
 もう一人は反対に、気の弱そうな笑顔を作っている。背も低く小柄で、この学園にしては珍しいタイプではないかと思えた。長めの栗色の髪が目に掛かり、やや暗い印象を受ける。彼が不正な生徒を取り締まる姿は想像がつかない。

 二人が晴一や桐生先輩と映っている写真もある。どれも田中先輩が撮影したものなのだろう。


 「懐かしいな。どうしてるんだ?二人」
 「斉原先輩が家継いで、間宮先輩が大学行ったって聞いたな」
 「あぁ……そんなことも言っていたな。田中先輩が」
 「あの人こそ何やってんだ………就職出来たのか?」
 「………優秀ではあったからな。進学したのかもしれない」


 二人は写真を並べながら話し出す。

 風紀委員会において、上下関係を感じたことはない。勿論二人は先輩だが、年上だからという理由で敬ったことは一度もないと思う。晴一に至っては僕の所有物だ。敬う必要性を感じない。
 だがしかし、こんなときに年齢の、学年の、差を感じる。二人は僕の二つ上であり、僕よりも早くこの学園を去っていく。来春にはいなくなっていく。


 僕は、今朝貰った進路調査書を思い出していた。





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