--05
「ぐぁッ!?」
先ずは油断し切った山田の腹部に拳を入れた。
皆一様に動作を止める。
山田並びに山田でない生徒とはウェイトの差があるため、速攻で片を付けなくてはいけない。
「おいワカメ、伏せろ」
「ぇ…………いやあああああ!!!」
身体をくの字に折った山田。
その腹部に全体重を掛けるようにしてすかさず蹴りを入れる。
「ぅわっ!」
山田でない方の生徒は、飛んできた山田を避けきれず、山田の下敷きになるように倒れた。
それを呆然と眺めていた小柄な生徒三人は、僕が向かっていくとハッと踵を返す。
逃がさない。
僕は片足に力を込め、真ん中の生徒を狙う。
跳び蹴りが綺麗に決まった。前につんのめる生徒にバランスが崩れる。が、蹴りを入れたその足を軸にして持ち直し、残りの二人の頭に回し蹴りを入れた。
静寂が訪れた。
山田に蹴りを入れた辺りに、光るものがある。何となく心当たりがあり顔面をぺたぺたと触れば、眼鏡が外れていた。
近づいて拾うと、やはりそれは僕の眼鏡で。衝撃でレンズが割れてしまっている。
「ぁ、木崎………」
ベンチから身体を起こしたワカメ少年が、こちらに近づいてくるのが気配で分かった。
視界がぼやけていると、色々と不便だ。
「悪い、俺のせいで、巻き込んで」
「あぁ」
僕は胸ポケットに眼鏡をしまう。
そしてずっと気になっていたことを問うた。
「何故俺の名前を知ってる」
「ぇ………だって隣の席だし」
「……………」
初耳である。
◇
何となく気まずいムードで屋上を後にした僕らは、中央校舎三階廊下を歩いていた。
「あれ」
そこで僕は、見知ったアッシュブラウンの髪を目撃した。
「木崎か?」
昨日、美味しいお茶を淹れてくれた風紀委員、桜庭先輩である。僕は美味しいものを与えてくれた人間を忘れない、雛鳥のような少年である。
しかし桜庭先輩は、眼鏡を掛けていないためか、僕であるとわからなかったようだ。そんなに変わるだろうか。
「木崎、ちょっと付き合え」
「僕には心に決めた人がいますので」
「なっ………違ぇよバカ!」
ちょっとした冗談なのだが。
「チカから連絡入ったんだよ」
「何か用ですか」
「生徒会室行くついでに、中央校舎で木崎拾ってこいって」
「………」
何故僕がここにいると知っている。
しかし迎賓室に行くということは、また桜庭先輩の淹れたお茶が飲めるということだ。
「行きます」
僕はポジティブである。
「えっとお前、市川は……」
「ぇ、あの、俺」
「………保健室行け。悪いな、俺たちがちゃんとしてねぇから」
「いえ、そんな」
ワカメ少年は市川という名前らしい。ワカメ改め市川は、「失礼します!」と言うと、小走りで去っていった。
黒い海草がわっさわっさと揺れた。
[←][→]
[戻る]
無料HPエムペ!