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 「ぐぁッ!?」


 先ずは油断し切った山田の腹部に拳を入れた。

 皆一様に動作を止める。

 山田並びに山田でない生徒とはウェイトの差があるため、速攻で片を付けなくてはいけない。


 「おいワカメ、伏せろ」
 「ぇ…………いやあああああ!!!」


 身体をくの字に折った山田。
 その腹部に全体重を掛けるようにしてすかさず蹴りを入れる。


 「ぅわっ!」


 山田でない方の生徒は、飛んできた山田を避けきれず、山田の下敷きになるように倒れた。
 それを呆然と眺めていた小柄な生徒三人は、僕が向かっていくとハッと踵を返す。

 逃がさない。

 僕は片足に力を込め、真ん中の生徒を狙う。
 跳び蹴りが綺麗に決まった。前につんのめる生徒にバランスが崩れる。が、蹴りを入れたその足を軸にして持ち直し、残りの二人の頭に回し蹴りを入れた。


 静寂が訪れた。


 山田に蹴りを入れた辺りに、光るものがある。何となく心当たりがあり顔面をぺたぺたと触れば、眼鏡が外れていた。
 近づいて拾うと、やはりそれは僕の眼鏡で。衝撃でレンズが割れてしまっている。


 「ぁ、木崎………」


 ベンチから身体を起こしたワカメ少年が、こちらに近づいてくるのが気配で分かった。
 視界がぼやけていると、色々と不便だ。


 「悪い、俺のせいで、巻き込んで」
 「あぁ」


 僕は胸ポケットに眼鏡をしまう。
 そしてずっと気になっていたことを問うた。


 「何故俺の名前を知ってる」
 「ぇ………だって隣の席だし」
 「……………」


 初耳である。


 ◇


 何となく気まずいムードで屋上を後にした僕らは、中央校舎三階廊下を歩いていた。


 「あれ」


 そこで僕は、見知ったアッシュブラウンの髪を目撃した。


 「木崎か?」


 昨日、美味しいお茶を淹れてくれた風紀委員、桜庭先輩である。僕は美味しいものを与えてくれた人間を忘れない、雛鳥のような少年である。
 しかし桜庭先輩は、眼鏡を掛けていないためか、僕であるとわからなかったようだ。そんなに変わるだろうか。


 「木崎、ちょっと付き合え」
 「僕には心に決めた人がいますので」
 「なっ………違ぇよバカ!」


 ちょっとした冗談なのだが。


 「チカから連絡入ったんだよ」
 「何か用ですか」
 「生徒会室行くついでに、中央校舎で木崎拾ってこいって」
 「………」


 何故僕がここにいると知っている。


 しかし迎賓室に行くということは、また桜庭先輩の淹れたお茶が飲めるということだ。


 「行きます」


 僕はポジティブである。


 「えっとお前、市川は……」
 「ぇ、あの、俺」
 「………保健室行け。悪いな、俺たちがちゃんとしてねぇから」
 「いえ、そんな」


 ワカメ少年は市川という名前らしい。ワカメ改め市川は、「失礼します!」と言うと、小走りで去っていった。
 黒い海草がわっさわっさと揺れた。




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あきゅろす。
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