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--08
 
 
 一人思案する木崎から目を離し、俺は部屋を見渡す。一度こうなると、木崎は気が済むまで中々帰ってこない。
 特待寮よりも狭いリビングに、ソファとミニテーブルとテレビ。物はそこまで多くもなく、割とシンプルに整頓されている。黒を貴重としたシックなインテリアだ。
 テレビ台の下は本棚になっているらしく、色々な本が収められている。


 「………あれ?」


 そこで何となく目にしたことのある写真を見、俺ははたと視線を止めた。


 「どうしたの?市川」
 「あ、の雑誌」
 「あぁ、あれ?」


 あれ、と指差す有坂に、首をブンブン縦に振った。
 主に女性をターゲットにしたファッション誌。見間違いでなければ、他人の空似でなければ、あの写真は。

 写真は。


 「これ、今凄い話題になってるんだよ。会長親衛隊の一人が騒ぎ出して、それから学園中の噂になったみたい。会長のお姉さんが雑誌編集やってて、会長が何回かモデルやったことあるのは割と有名だったんだけど、誰かと写ってるのは初めてだからねー」


 さらさらの黒い髪。
 複雑に布地が重なるトップス。
 どことなく懐かしい印象のヘッドドレス。

 表紙に書かれたテーマは「トウキョウ・アリス」。


 「女の人とこんな至近距離で見つめあってる写真だしね。ショック受けた生徒も多いみたい」


 でも綺麗な女の人だよね、という有坂。
 お前が「綺麗な女の人」と言ったそのモデルは、俺だよ。

 ……………忘れてた。あのときは撮影でいっぱいいっぱいで、「モデル」ということを深く考えてなかった気がする。「写真が雑誌に載る」、ってことは、全世界に俺の女装姿が晒し者になってるわけじゃないか………。


 「市川?顔色悪いけど」
 「………ははは……」


 ご心配ありがとう、委員長。まさか表紙に載るなんて思わなかったんだ。まさか学園の噂になるなんて思わなかったんだ。
 しかも、よりによってこんな顔近づけてる写真………うわ、撮影したときのこと思い出した。いや、違う。あれはちょっと脳が夏の暑さでやられてただけだ。いつもの俺じゃない。何かこう、何かが乗り移ってた。
 一人で赤くなったり青くなったりしていると、思考の海から帰還していたらしい木崎と目が合った。有坂と委員長は雑誌を開いて「トウキョウ・アリス」特集のページを眺めている。木崎はそっちを見遣り、また俺を見、交互に視線を移し、最後に盛大なため息を吐いた。眉間の皺が「また面倒なことを」と物語っている。

 ………何で気づいたんだよ木崎。




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