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--07
 
 
 「意外とそういうことも出来るんだねー」


 後ろから、遅れてリビングに戻ってきた有坂の声がした。
 手にはお菓子の盛り合わせ。クッキーと煎餅、という異色の組み合わせが、皿の上で妙味を醸し出している。多分「どっちか嫌いだったら」という配慮なんだろう。配慮されているんだかいないんだか、判断しかねる組み合わせではあるけれど。


 「"意外"?」
 「え? 市川ってお坊ちゃまとかじゃないの?」
 「全然違う」
 「えっ!」
 「めっちゃ庶民。超庶民」
 「あぁー……やっぱりか」


 庶民なのだけれど、納得されるとそれはそれで釈然としないということを俺は知った。

 皿へ真っ先に手を伸ばしたのは、他でもない有坂だった。チョコチップクッキーを貪りながら、うんうんと頷く。


 「だって、お坊っちゃまにしては貧乏臭いし」


 おい。


 「何でこの学園に入ることにしたの?」
 「いやー……」


 有坂の問いかけに、俺は詰まった。
 生まれてこのかた、顔も見たことのない父さんが斡旋してくれました、とは言えない。さすがにディープすぎるだろ。


 「そ、ういえば木崎は何でこの学園に入ったんだ?」


 俺は話を木崎の方に逸らした。
 委員長と有坂の興味は逸れたらしい、二人の視線は木崎に向いている。


 「………あぁ」


 いち、に、さん。
 きっかり三秒待って、木崎は気の抜けた声で言った。


 「そういえば聞いたことがないな」
 「は?」


 "聞いたことがない"?

 そんな他人事な、と思うも、木崎はストローをくわえ「今度聞いてみるか」と呟いている。どうやら本気らしい。
 俺と有坂は顔を見合せ、それから委員長を見た。うっすら笑顔を浮かべ肩を竦める委員長に、再び顔を見合せぱちくりと瞬き。


 「木崎って変わってる?」
 「…………さぁ」


 知り合って半年。
 俺は木崎のことが、未だによく分からない。




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あきゅろす。
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