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「意外とそういうことも出来るんだねー」
後ろから、遅れてリビングに戻ってきた有坂の声がした。
手にはお菓子の盛り合わせ。クッキーと煎餅、という異色の組み合わせが、皿の上で妙味を醸し出している。多分「どっちか嫌いだったら」という配慮なんだろう。配慮されているんだかいないんだか、判断しかねる組み合わせではあるけれど。
「"意外"?」
「え? 市川ってお坊ちゃまとかじゃないの?」
「全然違う」
「えっ!」
「めっちゃ庶民。超庶民」
「あぁー……やっぱりか」
庶民なのだけれど、納得されるとそれはそれで釈然としないということを俺は知った。
皿へ真っ先に手を伸ばしたのは、他でもない有坂だった。チョコチップクッキーを貪りながら、うんうんと頷く。
「だって、お坊っちゃまにしては貧乏臭いし」
おい。
「何でこの学園に入ることにしたの?」
「いやー……」
有坂の問いかけに、俺は詰まった。
生まれてこのかた、顔も見たことのない父さんが斡旋してくれました、とは言えない。さすがにディープすぎるだろ。
「そ、ういえば木崎は何でこの学園に入ったんだ?」
俺は話を木崎の方に逸らした。
委員長と有坂の興味は逸れたらしい、二人の視線は木崎に向いている。
「………あぁ」
いち、に、さん。
きっかり三秒待って、木崎は気の抜けた声で言った。
「そういえば聞いたことがないな」
「は?」
"聞いたことがない"?
そんな他人事な、と思うも、木崎はストローをくわえ「今度聞いてみるか」と呟いている。どうやら本気らしい。
俺と有坂は顔を見合せ、それから委員長を見た。うっすら笑顔を浮かべ肩を竦める委員長に、再び顔を見合せぱちくりと瞬き。
「木崎って変わってる?」
「…………さぁ」
知り合って半年。
俺は木崎のことが、未だによく分からない。
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