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 ◇


 西校舎の屋上は、空中庭園になっている。


 「ぅわっ!? 何なんだよお前ら!」


 ロイヤルガーデンをイメージしたという此処は、薔薇のアーチが設置されていたり、人工芝が床面に敷き詰められていたりと完成度が高い。


 「西園寺様にあんな口を聞くから悪いんだよ」
 「はぁ? あれは司が」
 「なっ………お前!西園寺様を名前で呼ぶなんて!」


 ところどころに置かれた腰丈くらいの高さの家も、不思議の国のアリスを彷彿とさせ、僕としてはかなり気に入っている。


 「もう許せない……! やっちゃってよ!」
 「これに懲りてもう西園寺様には近づかないことだね」
 「ぇ、ちょ!!」
 「あの、煩い。煩いです」


 全員の視線が僕にぶつかった。

 せっかくの庭を満喫していたというのに、こいつらが騒がしくていただけない。
 大声の出所はすぐに分かったため注意を促すと、ベンチの上でガタイのいい生徒に組み敷かれた地味な生徒に「あ、木崎!ヘルプ!」と助けを求められてしまった。

 地味な、というのは語弊があるかもしれない。
 まるでふやけたワカメのような黒い髪に、ヴィンテージではと思わせるくらいに厚いレンズの眼鏡。そのあまりに野暮ったい容姿に反してはだけたシャツ。
 輝かしい二十一世紀初頭に於いて、このスタイルは逆に派手ではないか。


 「いやシャツは、はだけたんじゃなくて脱がされたんだよね」


 僕は思案した。


 「とりあえず助けて!ヤバいから!俺、女のコになっちゃうから!」


 全員が硬直している異様な状態から、先に脱け出したのはワカメ少年だった。

 その言葉で僕は、これが強姦現場であることを悟った。
 性欲を発散させるため、同性を襲うという事件が稀に起こってしまう、と叔父が嘆いていたのを思い出したのだ。


 「そうか」
 「えええええ!? 助けてよ木崎!」
 「メリットないし」
 「うそぉぉぉぉ!?」


 大柄な生徒二人に押さえつけられているワカメ少年。
 それを眺めている僕。

 ワカメ少年を後ろから眺めていたらしい小柄な生徒たちは、突然の第三者(僕)の登場にしばし呆けていたが、はっと我に返ったように背筋をピンと伸ばした。


 「とりあえず見られた以上は野放しには出来ないね」
 「山田、コイツもヤっちゃってよ」
 「マジで? このヲタクよりあっちの方が綺麗だよな。ラッキー」
 「ちょ……やめろ! 木崎、やっぱり逃げて!」
 「悪いが逃亡は主義じゃない」
 「えええええ!?」


 この距離だと走らなければ逃げ切れない。
 僕は運動というものを無限定に嫌っているため、それは避けたいのだ。

 「ごちゃごちゃうっせぇよ」
 「ぅぐっ!」


 両手を上にあげた状態で拘束されたワカメ少年の腹部を、山田でない生徒が蹴り上げた。


 「まあお前に恨みはねぇけど、気持ち良くしてやるからガマンしてくれや」


 山田が下品な笑みを浮かべ近づいてくる。
 もう一人がワカメ少年に迫り、木製のベンチはみしりと音を立てた。


 巻き込まれた以上、自分のやり方で片をつけるのが流儀だ。



 眼鏡を外せば良かったな、と思いながら、僕は足を踏み出した。




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あきゅろす。
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