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 中へ歩いていく有坂と木崎に続き廊下を歩くと、リビングがあった。ここが共用スペースで、右側の壁にある二つのドアがそれぞれの部屋、と有坂が教えてくれた。


 「とりあえず座って。お茶とジュース、どっちがいい?」
 「あ、俺手伝うよ」
 「いいよ。運ぶときお願いするから」


 で、どっち?と聞かれ、俺はお茶を選んだ。

 ソファでは順応性が異常に高い木崎がすでにくつろいでいる。どうして初めて来た部屋で、そこまでくつろげるんだ。
 床にラグマットが敷いてあったから、俺はその上に座った。ソファは三人掛けが一つだから、どのみち全員は座れない。ていうか、全員横一列のソファに座ってたら、それはそれで怖い。

 委員長はソファを背にして床に座り、携帯を弄っていた。俺が座ると、パチンとそれを閉じる。


 「めぐは?」
 「飲み物用意してくれてる」


 委員長は有坂のことを、「めぐ」と呼ぶ。俺が答えると、そっか、と携帯をポケットにしまった。
 ふと顔を上げると、木崎が頬杖を付いて委員長を見下ろしている。下からのアングルだと、いつもの無表情に拍車が掛かって、何となく迫力がある風に見える。


 「どうした? 木崎」


 気づいた委員長もまた顔を上げ、ニッコリと微笑んだ。


 「………今の」
 「あぁ、見えた?」
 「もしかしてお前」
 「分かるんだ。木崎も同類?」
 「一緒にしないでくれないか?」


 二人の間に、ぴり、とした空気が流れている。
 木崎は眉間の皺をますます深め、委員長は笑顔、でも目は笑っていない。


 「木崎?どうした―――……」
 「市川ー、飲み物運ぶの手伝ってー」


 間に入ろうと口を開いた瞬間、それは有坂の声に遮られた。


 「あ、うん」


 二人を気にしながらも、カウンターキッチンの向こう側へ行く。

 トレーにはグラスに入ったお茶が二つと、ジュース―――多分グレープフルーツジュースが一つ、それから一つだけ色の濃いグラスが一つ。そういえば木崎には何飲むか聞いてないな、と思い口にすれば、「木崎君がジュース選ぶとか想像つかないから」としれっと返されてしまった。確かに、と思ってしまう俺がいる。


 「零さないように気を付けてね。重いから」


 ふっ、夏期休暇で鍛えられた俺を舐めるなよ。

 軽々持ち上げてリビングに行くと、二人とも何事もなかったかのようにくつろぎ、それぞれ顔を上げた。若干面食らうも、わざわざ掘り返す必要もないため、俺はその件については黙っておくことにした。

 グラスをミニテーブルに乗せていく。


 「はい、お茶と………」
 「アイス珈琲が俺の」


 濃い色の液体が入ったグラスを、委員長がひょいと取り上げた。中身はアイス珈琲だったらしい。




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あきゅろす。
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