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「何の話してるんだ?」
玄関でしばらく話し込んでいたら、奥から委員長が出てきた。
こっちは有坂と違って、制服から私服に着替えている。Tシャツにカット素材のラフなパンツ。私服じゃなくて、もしかしたら部屋着かもしれない。
「僕の名前の話」
「あぁ。めぐは変わってるかも」
「委員長の苗字も変わってるよな」
表札に書かれた文字は、俺の見たことのない名字だった。もっとこう、慎ましやかな名字にしろよ皆。西園寺とか美作とか、豪華すぎ。俺を見習え。
「あれ、何て読むんだ?」
「しらなぎ」
「へぇ。何かカッコいい」
俺が感心しながら再び靴を脱ごうと腰を屈めると、
「でも、苗字では呼ばないで欲しいんだ」
いつも余裕のある委員長の声が、少し強張ったように感じた。
顔を上げたその先の、委員長の表情は苦笑まじりのものだった。
「え?」
「苗字。気に入ってないから。呼ぶなら名前にして」
「でもカッコいいの、に゛っ!?」
食い下がる俺の足に激痛が走り、顔が引き攣った。
隣に立つ木崎を睨むと、木崎は涼しい顔で「やはり部屋の造りから違うんだな」とか言いながら俺の脇を通り過ぎていく。
「この学園は、苗字で呼ばれたくない生徒って多いよ」
先に室内へ消えていく委員長の背中を見遣り、有坂はこそっと俺に囁いた。
「そうなのか?」
「家業が気に入らなかったり、親との仲が良くなかったりとかね。名字で呼ばれたくないって言われたら、大人しく従った方がいいよ」
そういえば紫先輩も、苗字で呼ばれたがらなかった。紫先輩は両親との仲があんまり良くなかったはずだ。
金持ちなんて言っても、色々あるんだなと思う。
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