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「でも、司は反対するかもしれないね」
「え?」
「あいつは子供だから。嫉妬するかも」
王子と魔王の中間地点みたいな笑顔で、紫先輩はクスクスと笑う。こういう笑い方を、最近よく目にするようになった。それは紫先輩がコンタクトを外して以来のことで、これが素なんだろうな、と安心する。
それにしても、嫉妬………?
あぁ、「わけわかんねぇやつと遊んでんじゃねーよ」とかね。言いそうだよね。自意識過剰とかもう思わないわ、司なら絶対言うから。諦めたから。
「知らないですよ。俺の友達なんですから」
俺も椅子を引いてデスクに着いた。
予算修正に、部活動や委員会との会議も一段落ついたから、今日からは二学期の予定を立てていかなくちゃならない。行事予定の書かれた紙に目を通す。
「そうだよね」
紫先輩はクスクスと笑った。
「晶」
「何ですか?」
「僕はね、晶が好きだよ」
「え?」
思わず顔を上げると、特別なことなんか何もないという風に、紫先輩はプリントに目を通している。
しかし俺の視線に気づいたのか、紫先輩もふっと顔を上げた。
「司は晶を独占することで、晶を好きなのかもしれないけど」
「…………」
「僕は自分のものにならなくてもいいと思ってる。そうやってこの学園で楽しそうにしてくれていると、僕も嬉しいな」
友情とか、人情とかじゃない。
この「好き」が恋愛感情なんだって、分かるくらいには俺もこの学園に毒されている。
「あまり深く考えないで」、そんな俺に声を掛ける紫先輩。
目が回りそうだ。
紫先輩は綺麗だし、優しいし、凄く好きだけど、そういう意味じゃないっていうか、
「あの、」
「だから、あんまり深く考えないの」
いつの間にか近くにいた紫先輩に、ぷにっと頬を触られた。
「こういうときは、ありがとうって笑えばいいんだよ」
「へ?」
「そうしたら、僕は嬉しいな」
無理してるわけじゃない。
嘘を吐くときの、出会ったときみたいな笑顔じゃない。
あまりに綺麗に笑うから、俺はどうしていいのか分からなくなってしまった。
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