outside story
木崎が風邪を引いた。
「木崎君、休み?」
「あぁ。風邪だって」
「そっかあ………ありがと」
朝のホームルーム終了直後。
俺に話し掛けてきたそいつは、遠巻きにやり取りを見ていたやつらのところへ戻っていく。「風邪だって」「じゃあ今日休みかー」。そういえば話しかけて来たあいつ、いつも木崎のこと見つめてる。
暇だから、一時限で使うリーダーのノートを机に乗せた。隣の席には誰も座っていない。
「木崎、風邪だって?」
一つだけぽっかり空いた席を眺めてたら、前から声を掛けられた。
「委員長」
「木崎って風邪とか引かなさそうなのに。珍しい」
うん、俺もそう思う。
委員長は俺の前の席に座るやつ―――有坂と話していたらしい。一緒にこっちを見る有坂はたれ目がちの、色素の薄いやつだ。
「木崎君、いっつも風紀の仕事頑張ってるからね」
有坂は空いた席を振り返って言った。
「そーなの?」
「前、中央校舎の吹き抜けから飛び降りてるとこ見たよ」
「…………へぇ」
何やってんのあいつ。
「そういえば俺も一昨日見たよ。科学室の辺りで第二の風紀の先輩と話してた」
「上ノ宮先輩かな」
「小さくてヘッドフォン掛けてる先輩」
「じゃあその人だ」
上ノ宮先輩、ってことは風紀の仕事か。
生徒会役員には瞳孔開いて凄む上ノ宮先輩………木崎は、あの人と仲がいい。あんな気難しそうな人と仲よくなれるなんて、俺は木崎を尊敬する。
「編入生なのに凄いよね。ねぇ、一限って何だっけ」
「リーダー」
「小松先生呼びに行かなきゃ」
有坂は席から立ち上がった。
きょとんとする俺に、「日直なんだ」と付け加える。
「俺も行くよ」
「いいよ別に。予習でもしたら?」
「鳴海先生に用があるんだ」
委員長は有坂に続き、軽く手を振りながら教室を出ていった。
再びぽつんと取り残された俺、ちょっと手持ちぶさた。いっつも何してたっけ。あ、木崎と喋って、たまに課題見せてもらって、授業の予習とか復習したりして。
教室はいくつかのグループに分かれている。それぞれお喋りしたり、教科書を開いたり、携帯を開いたり。見渡せば誰かとたまに目が合うものの、すぐにぱっと逸らされてしまう。
今は九月。
入学してから半年が経とうとしている。
俺は、木崎以外の友達がいないことに気づいた。
◆
「だって市川って話し掛けにくいんだもん」
昼休み。
有坂と委員長に昼食を誘われ、一緒に学食に来た。
前後の席にも関わらず、それまで話したことがなかった有坂に「俺って友達いないかも」と話を振ると、そんな答えが返ってきた。
「めっちゃフレンドリーだよ。な、委員長」
「北斗は別だよ」
「ほくと?」
煮込みハンバーグを切り分ける有坂に聞き返す。
すると今度は、こっちがきょとんとされてしまった。
「こいつの名前だよ、"委員長"。………まさか市川、名前知らなかったとか」
「あ、はははは」
だって、委員長は委員長だったんだもん。
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