--07
「晴一」
「ん?」
「何でお前が僕のベッドにいるんだ?」
僕は寝室のベッドで眠っていた。それはこの部屋の主である僕にとって自然なことであり、また当然でもある。
問題は隣にいるこの男である。当然のような顔で、上体をベッドヘッドに預ける形で、僕のベッドに居座っている。
そして僕は何故か、晴一の腰の辺りに手を回しているのだ。何故だ。
「………いや、お前が離さなかったから仕方なくいるんだろ」
逆に怪訝そうな顔で返されてしまった。
記憶を辿れば、僕は晴一に抱えられて寝室までやってきた、はずだ。そこから先記憶はないが、そのときに僕が晴一を離さなかったから、ここにいたという。
「…………」
市川風に言うと、「イラッとした」。
腰に回していた腕を離す。
「腹減ってないか? 何か作――――!?」
僕は右足で思い切り、晴一をベッドから蹴り落とした。
「いってぇ……! 何だ急に、」
「パエリアが食べたい」
「は?」
広くなったベッドの上。
僕は捲れた布団を頭まで被る。
「パエリア。今すぐ」
「寝起きで胃もたれするだろ」
「パエリア」
「つーか貝なんてあるか、」
「パエリア」
「……………」
「パエリ」
「あーもう分かったっつーの!!」
ややよろめきながら、寝室を出ていく気配がする。
その様子に満足し、少しだけ苛立ちが収まった。
パエリアが出来上がるまで、一眠りしようと思った。その頃にはもう、パエリアなどというこってりした食べ物は望んでいないのだろうけれど、可哀想なので食べてやる。そもそも、特別パエリアが食べたかったわけではないのだ。作るのが難しそうだと思ったから。それだけであって。
枕に顔をうずめると、あの香水の匂いがした。
何となく懐かしい香り。
どこで嗅いだことがあるのだろう、と思いながら目を瞑ると、あれだけ眠ったはずなのに、再び襲う眠気が思考を蝕んだ。
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