--06
◇
「…………あぁ、悪いけど今日は行けねぇわ」
瞬きを二三繰り返す。
時間が経ち薄くなった香水の匂い。僕はこの香りが好きかもしれないとぼんやり思う。
「赤峰さんが派手にやらかす前に食い止めろ。黒崎に相手させときゃある程度大丈夫だから」
「……あか、みね?」
「ん。起きたか」
随分と眠っていたようだ。
ベッドサイドにある間接照明が点いている。そこだけがぼんやりと発光している。
ピ、と音がして、晴一の携帯電話が切れた。逆の手で頭をゆるりと撫でられ、掛かる前髪に目を細める。
「熱下がったか?」
前髪をかき上げられ、額にその手が触れた。
「ん。大分良くなった」
「………」
「明日も休むか? 特待って確か欠席日数多いと退学だからなるべく、」
「赤峰」
「ん?」
「誰」
「…………チームの総長」
ばつの悪そうな声色に、晴一の顔を見上げる。
比較的整った顔立ちなのだな、と脈絡もなく思う。
「お前、見た目は不良のくせに中身が情けないところが褒められた点なのに」
「なさ……ッ」
「中身まで不良でどうする」
「不良じゃねえよ」
「説得力がない」
開いたシャツの襟と、地毛ではないだろうアッシュブラウンの髪。
これらを引っ提げ優等生だと言うならば、僕や桐生先輩はどうなるんだ。仏か。仏なのか。
「無理やり入れられたんだよ」
晴一は何かを思い出したような、呆れるような口調で言った。
「ふぅん」間の抜けた相槌で応え、回した腕に力を込める。
「…………」
回した腕?
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