[携帯モード] [URL送信]
--05
 
 
 暇潰しにグレープフルーツゼリーを食べていた僕は、電話を掛ける晴一の声に動作を止めた。


 「今授業中だろ。………いいわ。鳴海に宜しく」


 ぴ、と電話が切れる。


 「…………忙しいから無理だと」
 「鳴海、とかいう単語が聞こえたんだが」
 「…………」
 「…………」


 先ほどの経験を踏まえ、僕は空気を読むことを覚えた。なので、これ以上は追及しないことにした。


 「薬」


 右手を差し出す。
 空いた左手のスプーンでゼリーを掬うと、ころりと逆(サカ)の掌に転げ落ちてくる感触があった。
 白い錠剤が大小二粒と、青いカプセルが一粒。


 「喉と、鼻と、熱冷まし」
 「喉は痛くない」
 「今のうちに飲んどけ」


 飲み合わせの関係で別の症状が発生した場合は、全責任を晴一に被せようと思いながら、僕は薬を口に含んだ。
 三粒、一気に飲み込む。
 喉の異物感に噎せかえり咳をすると、「ほらやっぱ喉やられてんだろ」と勘違いな発言をされ、僕は殺意を抱いた。ここに猟銃があったなら、今頃晴一は蜂の巣である。


 しかしその殺意を直接本人に向けなかったのは、


 「………眠い」


 先ほどまで眠っていたはずなのに、頭が猛烈に睡眠を訴えている。
 被っていた布団ごとソファへ倒れ込もうとするも、それを晴一の腕に阻止された。二等辺三角定規を挟めそうな体制で、僕は不恰好に静止する。


 「ベッド行けって」
 「ここで寝る」
 「風邪引くぞ」
 「もう引いてる」


 ずず、と鼻水を啜った。


 「あー………くそ、」


 不安定な体制にやや心許なさを感じながら微睡み始めたそのとき、身体がふわりと浮いた。熱に浮かされているとか、そういう意味ではない。
 寝室に向かっているのだな、とおぼろ気に思う。

 僕は身体の力を完全に抜いて、意識を手放した。




[←][→]

6/8ページ

[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!