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欠席
 
 
 風邪を引いた。


 「夏なのに風邪なんて珍しいなー」
 「………あぁ」
 「とりあえず鳴海には伝えとくよ」
 「頼む」
 「放課後お見舞い来るから!」
 「来るな」
 「何で!?」
 「馬鹿。移るだろう」
 「心配してくれんの? 木崎優しいー俺ってば幸せ」
 「………遅刻するぞ」
 「うわっ! あ、お大事になー!!」


 インターホン越しに、バタバタと慌ただしく走り去る市川を見送ると、鼻がムズムズとした。グシッと間抜けなくしゃみをし、息を吐く。

 どう考えても、先日の幽霊事件が原因と思えてならない。シャツ一枚で真夜中の校舎に侵入し、突風に煽られた。更に一晩中、あの科学室を清掃していたのだ。体力が落ちたところをウィルスに狙われたに違いない。大変不甲斐ない。
 頭がぼーっとする。熱があるかもしれない。
 僕の部屋には体温計がない。常備薬も絆創膏もオロナインすらもない。必要がないと思ったため――いや、そんなものがいつか必要になるとも思わなかったため、入寮時に用意していないのだ。実家で風邪を引いた記憶など無いに等しいし、いざ風邪を引いたときは茜が世話を焼いてくれたり、宣之さんが味噌煮込みうどんを作ってくれたりした。要するに、「自分が」体温計を必要とする姿を想定出来なかった。


 授業は欠席と決めたので、今日は一日部屋に篭ろう。一日眠れば治るはずだ。
 とりあえず空腹なので、何かを食べようと冷蔵庫を開けた。


 「………」


 空だった。


 僕は自炊をしない。するのは市川だ。食材はこの部屋にあっても腐るだけなので、必ず持ち帰るよう指示をしている。これが裏目に出るとは。

 寮の食堂に行くにも、部屋着から着替えるのも面倒臭い。ルームサービスも然り。
 ふらふらと身体をソファに投げやった。これは本当に熱を出しているかもしれない。


 ぼんやりとする頭で、味噌煮込みうどんが食べたいと思った。




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