二重構造
あれからピィピィと煩い武宮氏を追い出し、チカ先輩から話を聞き出した。
やはり幽霊騒ぎは武宮氏の企てた狂言で、コンクールの邪魔をしてやろうと後輩も巻き込み実行したという。それは成功し、米倉氏は研究どころではなくなり、部室に現れなくなった。
ここで問題が発生する。
首謀者である武宮氏が、"幽霊を視た"と言い出したのだ。
「何故風紀に来るのか分からない」
「………一度引き受けるとまた来ると言っただろう」
桐生先輩の呆れたような声色に、チカ先輩は舌打ちをした。
狂言であったはずの幽霊を視てしまった武宮氏。
「………それは、白いもやのようなものだと言っていませんでしたか?」
「…………」
沈黙を、肯定と捉えた。
先ほど僕の視たもや。
科学部部員の証言。
武宮氏の証言。
「…………あぁ」
「何か分かったのか?」
僕の声に、晴一が応接セットから応えた。
幽霊に怯えている晴一のためにも言うべきか迷ったが、まあいいだろう。
「この事件は、二重構造です」
「二重構造?」
桐生先輩が眉を寄せた。
僕は右手人差し指を宙に上げる。
「はい。一つ目は"武宮氏狂言事件"、もう一つは――…」
僕は迎賓室を見渡した。
チカ先輩は目を逸らすように俯いており、もしかしてこの真相に気づいていたのではないかと思う。
二本目の指が上がる。
「科学室幽霊事件、です」
二つの似通った事件が重なり、一つの事件のように錯覚していたのだ。
「幽霊?」
「はい。武宮氏の狂言についてはいいでしょう。僕が着目したのは、先ほどの武宮氏の発言です」
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