ふりだし
その不穏な予感は、的中してしまう。
「かかかか上ノ宮君」
そのまた翌日、迎賓室の扉を開くと、そこには武宮氏がいた。
「頼むよぉ、こここわくて研究も出来やしない」
「知らないよ。せめて頭でも洗って出直してくれないかな」
触るだけで手がベタつきそうな武宮氏の髪を、辛辣な言葉で一蹴するチカ先輩。
一昨日と同じくソファにふんぞり返っている。僕はチカ先輩が腰を低くする様を見たことがない。
「て、天才君からも言ってくれよぉ!!」
入ってきた僕に気づいた武宮氏が叫んだ。ややなよなよとした叫びだ。
「木崎です」
「ととととにかく、頼むよぉ」
「五月蝿いな、君は。大体あれは君の狂言だろう?」
「狂言だよ!!」
武宮氏は勢いよく立ち上がった。米倉先輩に似ているな、と思う。
「そうさ、米倉の研究の邪魔をしてやろうと思ったのさぁ。僕の息が掛かった部員にちょーっと吹き込むだけ。口裏合わせて騙したのさ。米倉は天敵の君に泣きついて部室には寄り付かない。計画は成功したのさぁ」
武宮氏は下卑た笑みでチカ先輩に語りかける。
反対にチカ先輩は毅然とした表情で構えている。
「只、最後は計算外だったねぇ」
「何があったんですか?」
武宮氏の発言から、一連の幽霊騒ぎのことを言っているということはおぼろげに分かる。だが武宮氏は呼び出されたのではなく、赴いたというような風であり、チカ先輩に助けを求めていた。
武宮氏はぐにゃりと顔を歪めた。その目だけは不気味な生気があり、気色が悪いと感じる。
「出たんだよぉ、幽霊が」
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