不穏
「おかえり、木崎」
迎賓室に戻ると、桐生先輩が声を掛けてくれた。頭を下げて会釈する。
「どうだった?」
「何がですか?」
「いや………親衛隊だ」
「………あぁ」
忘れていた。
僕は親衛隊の起こした問題のせいで迎賓室を離れていたのだ。
「主犯格は美作副会長の親衛隊副隊長です。西園寺会長親衛隊隊長の鳴瀬 忍が場合によっては聴取に応じるそうなので、大まかな事実確認だけで戻りました」
ソファに身体を預け、目を閉じた。規則的な学園の生活に、身体は疲れているのだろうか。それとも視力が落ちただろうか。
「どした?」
眼鏡を外した僕に、晴一が問うた。
「……疲労だ」
「何か飲むか?」
「結構だ。それよりもチカ先輩は」
「あぁ……」
「チカは米倉の相手に疲れて帰ったよ」
桐生先輩が間に入る。
「米倉先輩?」
「さっき米倉が来た。早く解決しないと研究がどうだとか、コンクールがどうだとか騒がしかった。風紀委員会の見解を粗方話したよ」
「………何を、」
「おそらくお前を担ぐつもりの狂言だから直接武宮にでも問い合わせろ、幽霊なんていないから部室に行けと」
幽霊なんていない?
――やはりあれは幻覚なのか?
「米倉は激怒して出ていったよ。あれは科学室でなくて、寮に戻ったな。あいつの性格からして、武宮に担がれたのが悔しくて、当分部室には行かないかもしれない」
とにかくこれで終わりだと、桐生先輩は応接セットに座った。晴一は目に見えて安堵している。
―――本当にこれで終わりだろうか?
僕は自分の"視た"ものを幻覚だと思うことが出来ず、割り切れない思いを消化出来ずにいた。
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