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チカ先輩は面倒臭げに、目を伏せて言った。
「仮説を立てよう。これは狂言だ」
全ては米倉先輩に一泡吹かせるための芝居。
霊がいると嘘を吐き、米倉先輩を部室から遠ざけ、コンクールの研究に間に合わせないようにするためだ。
「ただ、武宮派は武宮派、米倉派は米倉派で、霊のイメージを決めたんじゃないかと思う」
武宮派は「黒い影」。
米倉派は「白いもやのようなもの」。
完全に証言がかけ離れてしまったのだ。
チカ先輩がわざわざ目撃情報を聞き直していた意味が分かった。先輩は霊の大きさや形について詳しく聞いていた。あれは、各々の「霊」が全く同じものであるかを確認するための作業だったのだ。
「大きさまでは決めていなかったのだろうね」
結果、ちぐはぐな証言ばかりが出てしまい、ぼろが出た。
「予想だと、武宮の差し金だ。あの男、随分嬉しそうにしていたじゃないか」
「米倉派の生徒が、米倉を裏切ったっつーのか?」
「そういうことになるね」
晴一の質問に、チカ先輩はばっさりと答える。
桐生先輩は口元に手を当て、眉を寄せた。
「………複数の幽霊がいるという仮説は」
「ありえないね。そっちの方が説明がつかない。まぁそうやって終わらせるのもいいとは思うけど。第一、"黒い影"というのは悪霊の類だ」
「え?」
武宮派の生徒が証言した「幽霊」のことだ。
「すっと消えるというのは腑に落ちない。それに、悪霊がいる部室で部員が平気なはずがない」
「………詳しいな」
「―――……」
恐怖のためか、若干頬を引き吊らせた晴一が言うと、チカ先輩は肩を小さく揺らした。
僕以外の誰かが気づいたかは分からない。
「………いいじゃないか、解決だよ。明日にでも武宮に事実確認を取ろう」
つまらない事件だった、と立ち上がり、チカ先輩は迎賓室を出て行った。
それは早めに切り上げたいという印象を受け、僕は桐生先輩と顔を見合わせた。
霊がいないと分かってあからさまに安堵する晴一は、知らない。
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