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 野沢氏は科学部の部員にしては珍しく、明るい人柄だった。科学室に来て短時間しか経過していないにも関わらず、僕はそう感じた。

 野沢氏は実験を、グループではなく独自で行っているようだ。


 「丁度部室に忘れものしたときに、まだ一年生がいるかなーと思って戻ってきてみたんだよ」
 「それはいつのことか覚えていますか」
 「うーん………憶えてないなぁ」


 鍵は閉まっていたそうだ。
 仕方なく寮へ戻ろうとした野沢氏は、これまたふと見た窓から、黒い影を目撃する。


 「何つーか。怖かったね。あれは」
 「君は科学部のくせに霊なんか信じているのかい?」


 それまで黙っていたチカ先輩が言うと、野沢氏は明らかに頬を痙攣させた。


 「いや………つーか、見たんだよ! 見たらそう思うだろ普通!」
 「ふつう、ね。いいよ別に」
 「何だと……」
 「野沢先輩。聞きたいことがあるのですが」


 一触即発を避けようと、僕は口を挟んだ。


 「何? 第一学年の天才君」
 「木崎です。正直に答えてください」
 「…………何だよ」
 「野沢先輩は、武宮先輩の派閥ですか、それとも米倉先輩の派閥ですか」


 野沢先輩はきょとんとしたような顔をし、それから苦笑を漏らした。


 「ぶっちゃけ武宮先輩だな。ってのは、俺が単に化け学専攻だからなんだけど」
 「そこにいる江本少年のグループは」
 「あぁ、あそこも武宮先輩派だよ」


 野沢氏は「ここだけの話なんだけど」と声を潜めた。


 「実際化け学だ理科学だなんて言ってるのは、あの二人だけだ。化け学なら武宮先輩、理科学なら米倉先輩って無理やり振り分けられる。逆らえば実験の邪魔されたりネチネチ言われるから、先輩の言うことは聞かなきゃなんだよな」


 白熱しているのは二人だけで、周囲は一歩退いているようだ。
 これなら主犯格を武宮氏と仮定し、「全員で米倉先輩を騙す」計画も実現可能そうだ。


 「ちなみに米倉先輩派の方は、今いらっしゃいますか」
 「あぁ、あそこにいるよ」


 野沢氏が指差した方向にいた生徒は、二人で討論をしていたようだ。机には小難しそうな本が何冊も重なっており、僕にはよく分からない。


 「すみません、幽霊事件についてのお話を聞きたいのですが」


 声を掛けると、二人はびくりと肩を揺らした。





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