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 「あまり残念そうには見えませんけれど」


 僕が正直に述べると、武宮氏は目をギラリと光らせ、ふんと鼻で嗤った。


 「随分な口の利き方だねぇ首席君」
 「木崎です」
 「まーあいいさ………調べることがあるならどこでも見て行くといいさぁ……でも実験器具にだけは触るなよぉ?」


 にたにたとした笑みが気持ち悪く、僕は早足で武宮氏の傍を離れた。なるほど、これでは入部などしたくもない。
 一年の頃から勧誘されている、というチカ先輩に同情しつつ、別の実験グループの元に近寄って行った。


 「霊の調査?」


 三人が固まったこのテーブルの住民は、人間らしく会話が出来そうな集団で、僕は安堵した。
 赤と青のコードが複雑に絡まりあった実験器具で何かをしているようだ。


 「風紀委員会って、そんなこともするんですか?」
 「いえ、趣味で」
 「オカ研にでも頼めばよかったのにな」


 一人の小柄な生徒が言うと、残りの二人が笑った。
 オカルト研究会、通称オカ研は、古賀学園の同好会である。基本的に部活動は五人以上が原則とされ、申請の通った部活動には、学園から部費の援助がある。だが同好会は同好会申請により、活動場所の提供がされるのみ。その代わり人数は三人以上とハードルが低く、顧問の先生を抜擢する必要もない。
 オカルト研究会はその名の通り、occult――目で見たり、触れて感じたり出来ないものについての同好会であり、早い話が魔術や密教などを愛する同好会だ。
 この場合幽霊はoccultに分類されないのだが、僕は黙っていた。


 「この前見ましたよ、江本と一緒にいるとき」


 スポーツ刈りの生徒が訳知り顔、今から何か始まるとでも言った風に切り出す。小柄な生徒が「江本です」と手を挙げた。


 「科学部は活動が終わったら、一年生が鍵を掛けて帰るんですけど」


 その日、スポーツ刈りの生徒――尾田は鍵当番だった。
 研究に熱中していた江本少年に声を掛け、一緒に帰ることにしたという。


 「鍵掛けて、帰ろうと思ったんです。で、廊下の窓からふっと中を見たんです。いえ、特に意味はなかったんですけど」


 廊下側の壁には、肩くらいの高さに窓ガラスが埋め込まれている。


 何の気なしに尾田氏が中を覗くと。


 「いたんです。霊が」


 黒くてぼんやりとした影が見えたという。
 最初は何か分からなかったけれど、黒い影はゆるりと動き、尾田氏の方を向いた。


 「何となく、目が合った!って思ったんです」
 「影なのに?」
 「はい……どう言っていいか分からないんですけど」


 その日は江本少年と二人、一目散に寮まで帰ったという。


 「君は視たんですか」
 「いえ、僕は見てないですけど」


 もう一人いた生徒に話を振ると、その生徒は首を振って答えた。


 「野沢先輩が視たって言ってました」


 野沢先輩は、二年生だった。
 ということは、先ほどの三人組は一年生ということになる。


 「霊? 視たよ。この前」




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