科学部
科学部には、北校舎一階の科学室が部室としてあてがわれているそうだ。
「目に見えないものは信じたくないんだよ」
やや不満げなチカ先輩と一緒に、僕は科学室を目指し廊下を歩いている。
「第一言ったけれども、僕は科学部の連中とは関わりたくないんだよ」
「言ってましたね」
「僕が科学に携わっているというのに部活動に所属しないものだから、恨みを買っているのさ。もしも部活動に所属して、何か賞を取れば、古賀学園科学部の名は知れ渡るだろう? 奴らはそれが望みで、一学年の頃から散々勧誘してくる」
そういう因縁があったとは知らなかった。
確かにチカ先輩は理系分野に長けており、また科学のコンクールなどで幾つも賞を獲っているとも言っていた。部活動としては是非、先輩を名簿に入れたいのだろう。部員が何か賞を獲ったとき、その部活動の部費が上がる。
「でも僕は、本当に幽霊の仕業なのかが知りたいです」
「何だい急に」
「脳が作りだした幻覚かもしれないじゃないですか」
「部員全員が幻覚を視たというのかい? それは風紀ではなく精神科医の仕事だよ」
「もしくは米倉先輩以外の部員が全員グルで、米倉先輩を騙しているとか」
「それは一理あるかもしれないね」
科学室は、妙に湿っぽい場所にあった。
丁度校舎に陽が当たらない部分だ。この教室を「科学室」とした人間は、よっぽど陰険なのだろう。もしくは高度なジョークなのか。
「失礼します」
僕は科学室の扉を開けた。
「はぁい………なーんだ、上ノ宮じゃないか」
応じたのは、扉の近くにいた神経質そうな生徒だった。
肌は青白く目つきが悪い。不健康を絵に描いたような人材だ。薄暗い教室内で猫背なものだから、余計に性質が悪い。
「御挨拶だね、武宮」
チカ先輩の発言で、その人こそが「化け宮」こと武宮氏であることを知る。意見の不一致はともかく、あまり親しくしたくないタイプである。
「部長の米倉からの依頼だ。科学室にいる霊を退治しに来た」
「霊?…………うっふふふふふ、ネクラ君ってば、霊が怖くて天敵の君に頼みに行ったんだぁ」
粘っこい喋り方をするものだ。
武宮氏は手にしていたソケットを机に置き、にやにやと笑いながら僕とチカ先輩を交互に見る。
それにしても、米倉先輩が「ネクラ君」と呼ばれていることに驚いた。「化け宮」と大差ないネーミングセンスである。
「残念だったねネクラ君ってば、大切な時期なのに研究に没頭出来なくって」
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