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困ったときの神頼み
 
 
 南校舎の廊下を歩いている。

 休暇は終わり、二学期が始まった。僕は放課後、休暇中の課題に全く手を付けていなかった市川に付き合っているため、毎日遅れて迎賓室に向かっている。担任の鳴海先生にペナルティとして課題を増やされた市川は、案の定僕に泣きついてきたのだ。大体、何故白紙のままなのか。西園寺会長は何をしていたのだと、理不尽な疑問が浮かぶ。

 休暇明けの一週間は、学園内よりも寮でのトラブルが多いという。寮は風紀委員会の管轄外であり、寮監の仕事だ。ということでここ数日は、お土産博覧会によって集められたお土産を堪能している。言うまでもないとは思うが、九分九厘食物だ。


 「頼むよ上ノ宮ぁぁぁ!!」


 迎賓室の扉を開いた途端、涙ぐむような叫びが響いた。
 何なんだ、と足を踏み入れれば、皆一斉にこちらを見た。桐生先輩はデスクに腰掛けファイルを開き、環先輩はその椅子を窓辺に置いて拉麺を啜っている。チカ先輩持参、横浜土産だ。陶器人形が拉麺を啜る姿はなかなかシュールだが、堂々としているためあまり気にならない。チカ先輩は応接セットのソファで足を組み、片手を挙げた。


 「やあ、キサキくん」


 その向かい側に、人が座っている。
 白衣にボサボサの黒い髪。眉は垂れ下がり、完全に情けない顔の彼は、泣き顔で僕を見上げている。
 先ほどの魂の叫びは、どうやらこの人のものらしい。


 「あれ、遅かったなお前」


 キッチンに繋がる扉がキィ、と開いて、晴一が出てきた。手にしたトレーにはグラスが四つ載っている。ちなみに環先輩のヴェネツィア土産だ。


 「市川に付き合って遅れた」
 「何でまた………っておい」


 一ついただくことにした。
 刺さったストローでちゅうと吸い上げると、凍頂烏龍茶の芳しい香りが鼻を通った。


 「勝手に取んな!!」
 「また淹れればいいじゃないか」


 言った傍から環先輩がグラスを三つトレーから取り上げ、桐生先輩とチカ先輩に配った。勿論残りの一つは自分のものとして飲んでいる。
 白衣の彼に配布しないのはわざとだろうか。それにしてもひどいスルー具合である。




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あきゅろす。
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