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「………あれ」
「どした?」
墓石の方を眺めていたら、ふと気づく。
「黒崎家の墓、って……」
「黒崎」は"Noir"総長、黒崎 誠さんの名字だ。
ルイさんの名字は知らないけど、珍しい名字だし、被ってるとかないよな。
俺の疑問に気づいたらしい晴一さんが、「あぁ、それな」と苦笑いした。
「黒崎とルイは結婚の約束してたらしくて」
そのとき黒崎さんは高校三年生、ルイさんは二年生だった。
「結婚届に名前書いて判押して、結婚するとき出しに行くって決めてたんだと。で、ルイがもう助からないってときに、黒崎さんは病院離れて結婚届出しに行ったんだよ」
「え………」
「ルイの最期を看取ったのは赤峰さんだ。阿呆だよな、あの人」
晴一さんは笑う。俺は笑えばいいのか分からなくて、どんな顔をしていいのか分からなくて、きっと困ったような顔をしていたんだと思う。
ルイさんを失った街で、ルイさんを待ち続ける黒崎さん。荒れ果てていた黒崎さんがもう一度夜の街に戻ってきたのは、ルイさんを奪った街を変えるためだ。あんな悲しい事件が、二度と起こらないように。
いなくなった今も、黒崎さんはルイさんのことを想っている。
恋人「だった」んじゃない。
これからもきっと、ずっと。
ライターの火を蝋燭に、蝋燭の火を線香に。
二人の真似をして両手を合わせた。線香の煙が風に乗って消えていく。
ルイさん。
俺はあなたに会ったことないけど。
あなたが救った夜の街を、今度は俺が止めました。
黒崎さんは街を壊す拳を、護る拳に変えました。
凶暴だった赤峰さんも、黒崎さんと仲良くしてるみたいです。
だから大丈夫。
あなたが護ったものは今もあるから。
大丈夫です。
ふっ、と空気が擦れる音がして、蝋燭の灯りが消えた。司が吹き消したらしい。
「………手で消せよ」
「この方が気持ちこもってるだろ」
「抜かせ」
線香の煙は東の空へ昇っていく。
夜を待つ白い月が見える。
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