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 「着きましたよ」


 見晴らしのいい高台に、墓地がある。昔、肝試しをしにここを訪れたことがある。あのときはまさか、誰かに会いにここを訪れるだなんて、想像もしてなかった。
 料金を支払う司より早く、タクシーを降りた。夕方になれば風が涼しく、むき出しの腕を撫でる。

 俺の住む街が見渡せるくらいに高い場所。俺の住む街で一番、空に近い場所。
 ルイさんのお墓参りに来るのは初めてだ。


 「ルイの葬儀挙げるとき、チームの奴らが少しずつ金出したんだよ」


 近くの水道で桶に水を入れながら、晴一さんが言う。何か手伝おうと、とりあえず柄杓を三本手に取った。「ありがと」、きゅっと蛇口を捻る音。桶にぽたりと雫が落ちる。


 「全部の金使いきるために、こんないい場所に墓立てるしかなかったんだと」
 「幾ら集まったっけ? 何百万?」
 「………さぁな」


 司の軽口をはぐらかし、晴一さんは桶を持って歩き出す。
 ふと司の顔を見る。赤茶けた髪が風に揺れる。もしかしてこいつも、ルイさんの葬儀にお金、出したんじゃないか。そんな気がした。勿論俺は訊かない。司の質問に答えなかった晴一さんの気持ちを察して、口は開かない。

 お墓の中を通り抜け、坂道を昇る。三人とも、何も話さない。


 「―――着いた」


 最初に言葉を発したのは、晴一さんだった。

 たくさんの墓石とは離れた場所。その峰にお墓が一つ、ぽつんと建っている。何だか街を見守っているみたいだ、と思った。
 ふわふわと風が吹く。


 「………薔薇?」


 そのとき、独特な香りが花についた。「黒崎家ノ墓」、そう書かれた墓石の周りは、真っ赤に染まっている。
 思わず小走りでお墓に近寄ると、そこには薔薇が敷き詰められていた。

 墓石の周りがぎっしり、何本あるんだか、隙間がないくらいに赤い薔薇で埋め尽くされている。


 「毎年、黒崎が買ってくるんだよ」


 背後で晴一さんの呆れたみたいな声が聞こえる。


 「寒いっつーの。やめろ言うてるのに毎年買うし」
 「よくね? 愛だろ?」
 「……お前買いそうだよな。薔薇百本とか」
 「晶が頼めば世界中から集めてやるよ」
 「………うわ。きしょい」


 司と晴一さんは口々に言う。

 全然寒くないよ。
 むしろ黒崎さんの変わらない気持ちに、俺は泣きそうになった。

 ルイさんはもう、いないのに。


 「赤峰さんも止めればいいのに、増長させるから」


 晴一さんは墓石に近づき、花瓶に差した薔薇に視線を遣った。
 黒、赤、白。三輪の薔薇。それはストリートチーム"Noir" "Rouge"、両チームの援護を目的として結成された"blanc"の名を模している。


 「へぇ。"blanc"の総長も来たんだな」
 「珍しいな。俺は去年の秋から見てない」
 「俺は見たことない」
 「ガキだよ。俺たちよりも下だ」


 "blanc"の総長は掴みどころがなくて、どこにいるかも分からない。
 黒崎さんと赤峰さんが呼べば駆けつけるらしいけど、普段は謎の人だ。俺も顔は見たことがない。何でもルイさんが亡くなった後、そして俺が二人と知り合うよりも後に、夜の街の二大勢力――"Noir"と"Rouge"を援護するために作られたという。




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