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「次の撮影は、"女王の薔薇園"がテーマ」
メイクルームからスタジオへ向かう途中、エレナさんが隣について紙を読み上げる。今朝貰った、スケジュールが書かれた紙だ。
テーマを聞いて、何だか納得した。やっぱりそんなイメージなんだ。赤い薔薇が頭に乗った時点で、何となく予想はついていた気がする。
セットもチェンジされていて、床にはびっしり白い薔薇(後で聞くと、造花らしい)。王冠やら剣やらが天井から吊るしてあって、俺の顔の位置くらいにぷらぷらと下がっている。
今度は剣を持ってみたり、薔薇の中に埋もれてみたり、司の被ってた帽子を自分も被ってみたり。
さっきの撮影で度胸がついたのか、ポーズの指示にも積極的に答えていく。我ながら動きが柔らかくなってきた。その場にいるスタッフの温度が上がって、俺に向けられるのが分かる。それに応えたいと思う。
一枚目よりもシャッターは多く切られ、テンションの高いまま二枚目の撮影は終了した。
「晶、モデル向いてるんじゃない?」
「………女装のですか」
「あははははははー」
由美さん………さっきから何気にひどいです。
三着目は、何と上だけ白いブラウスに着替えさせられた。
アクセもじゃらじゃら付いてるし、頭にもヘッドドレスが付いてるんだけど、下は俺が今朝履いてきたパンツに、ヒールのパンプス。ボトムだけがミスマッチ、というか私服で、「これでいいんですか?」と聞けば「上半身だけの撮影だから」と岡部さんに返された。
「下は写らないの」
「でも何でヒール………」
「だって身長が司と合わないじゃない」
「そーですね。そうでしたね」
すいませんね、チビで。
「三枚目は、アリスがイギリスに戻るために帽子屋と離れ離れになるっていうのがテーマ」
エレナさんは資料を読み上げながら言った。
「はぁ……そうですか」
「これで最後だから、頑張ってね」
「頑張りまーす」
「私はチェックあるから行けないけど、終わったら美味しいものでも食べに行くといいわ。司にカード渡しとくから」
「頑張ります!」
美味しいもの。そうと聞けば俄然やる気が沸いてきた。
セットは取り払われ、小道具も無くてシンプルだ。全身を使ったショットじゃないから、そもそも必要がないんだけど。
先にスタジオに着いていた司も俺と同じで、上だけドレスアップ状態。シルクハットみたいな帽子にレジメンタルタイ、シャツとジャケットのコーディネート。で、下がデニムというちぐはぐなスタイルだ。
「だっさ」
「お前もだろ。つーかお前に至ってはだせぇだけじゃなくて女そ………」
「わばばばばばばば」
べちこーん!と勢いよく司の口を塞いだ。
怪訝そうにこっちを見るスタッフさんたちに、へらりと笑顔を返す。
「黙ってろよ馬鹿! 俺が変態扱いされたらどーすんだよ」
「知らねぇ。引き受けたのお前だろ」
「そういう問題じゃねー!!」
こそこそと言い争っていると、「仲良いねー」と笑いながら菅谷さんがスタジオに入って来た。
「仲良くないです!」
「普段からそんな感じ?」
「まぁ……一応」
司が答えると、「じゃあ次の撮影は楽勝かもね」と再び笑う。「顔見知り同士の方が打ち解けられていいかもしれませんね」、とアシストカメラマンの女性も言い、何が始まるのかと顔を見合わせる。
「はい、じゃあ二人、ちょっと密着してー」
その見合わせた顔を、二人で歪ませた。
「えぇぇ!?」
「恋人同士っぽい感じで」
菅谷さんの注文に、思わず素の声が出た。声色を高く演じている場合じゃない。
みっちゃくって………密着? くっつけと? ていうか、アリスと帽子屋は恋人同士じゃないだろ!
「おら晶、」
「ぅわ!」
ぐいっと腕を引っ張られて、そのまま司と至近距離。
いきなり髪を軽く指で掬われ、心臓が鳴った。
「あーそんな感じ。司君目線こっち」
ちょ、待って何これ何この状況。
司は俺の頭を抱えて菅谷さんの注文に応えていく。反して俺は棒立ちだ。
「アキちゃーん、動きつけてー」
「はっ!? はいっ!!」
動きって、何をどうしろっていうんだ。
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