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 カメラマンさん、企画さん、そしてエレナさんから撮影の説明を受けて、まずはポラチェック。簡単にいうと試し撮りだ。
 司はやっぱり慣れているみたいで、セットにある壊れた柱時計や山積みのトランクや本を使って次々とポーズを取る。
 俺はもうガッチガチで、どうしていいか分からない。とりあえずフラッシュ浴びるだけでビビるし、ライトの強さも相まって汗が凄い。司にフォローされながらのポラチェックは何とかオッケーを貰ったけど、「衣装借り物だからあんま汗かかないでー」と岡部さんに言われてしまった。

 いやいや無理です暑いです……と思って司をちらっと見ると、汗ひとつかかないでスタイリストさん(こっちは男の人)に衣装を直してもらっている。やっぱ慣れなのかなー。それとも気合が足りないのか? 汗って気合で出なくなるもの?


 「………よしっ!」


 そうだ、俺に足りないのは気合だ。汗をかいてはいけないという気合。
 ぺちん、と軽く頬を叩く。俺が頑張らなきゃ、エレナさんの面目が潰れてしまう。俺なりに、精一杯やらなきゃいけないよな。初めてだなんて言い訳にならない。引き受けた以上、女装だ何だとうだうだ言うのは格好悪いよな。


 「はーい、じゃあ本番入るよー」


 菅谷さんの声を聞いて、俺はセットに向かう。
 積まれた本の上にひょいと飛び乗ってみた。重なってるから、ちょっと足場が悪い。グラグラするそこから落ちないように、両手を伸ばしてバランスを取った。

 テーマはトウキョウ・アリス。ヨーロッパから東京に、遥か昔から現代にやって来た女の子。

 慣れないことばっかりで、周りは今までいた世界とは違っていて。わくわくしたり。怖かったり。
 でも帽子屋に出会えたから、不安なんてどこかに行ってしまうくらいに愉しい冒険。


 「表情いいよー。もうちょっと動いてみてー」


 菅谷さんに褒められ、何だか嬉しくなる。緩んだ表情にフラッシュが光る。
 本の山から飛び降りて、床に座ってトランクに肘をつく。俺の立っていた本の山に、司が腰掛ける。


 「笑ってー」


 アリスって笑うんか? 何となく、笑うイメージが無いんだけど。
 笑うっていうか、はにかむ感じ。元気いっぱいに明るいイメージじゃなくて、どことなく緊張しているみたいな。けれどわくわくしているみたいな。


 「はいラスト一枚ー!」


 カシャ、とシャッターが切られる。

 その瞬間、その場の緊張感がするんと溶けた。


 「お疲れ様でーす!」
 「お疲れ様でーす」
 「ちょっと休憩ー。モデルの衣装替え終わったら二枚目入りまーす」
 「お疲れ様でーす」


 肩の力が一気に抜けた。………結構集中してたみたいだ。汗なんて全然かいてないし、さっきまでのガチガチの動きも嘘みたい。


 「晶っ!」


 床に座ったままの俺の肩がぽすんと叩かれ、見上げると頬を上気させる由美さんがそこにいた。


 「お疲れ様!」
 「あ、ありがとうございます」
 「凄いじゃん、初めてに見えないよ。綺麗だった」


 うん、可愛いも嬉しくなかったけど、綺麗も言われて嬉しいもんじゃないな。

 由美さんに腕を引っ張られて、メイクルームに向かう。菅谷さんも今日はノリいいし順調に行きそうだねー、と言いながらメイクを直す。椅子に座って眼を瞑る俺に、二着目の衣装が当てられていくのを気配で感じる。


 「今日スタッフ皆ノリ良くない?」
 「思ったよー。いい仕事になりそうだしね、入稿楽しみ」


 由美さんと岡部さんが「これは」「メイクに合わない」「チーク変えて」「髪上げる?」と言いながら衣装を決めていく。


 「よし、これなんかどう?」
 「あー可愛い! いいじゃん、似合いそう」


 ジャケットも白いワンピースも脱いで、今度は黒の膝丈ドレスを身に付けた。頭には赤い薔薇のコサージュ、首にはでろんとした兎のマフラー。妙にリアルに出来ていて、ぎょっとする。
 タイツは黒と白のストライプで、靴はまたしても赤のヒール。ヒールは何とかならないですか、と言ってみたけどあっさり却下された。


 「だって司君と身長合わないでしょ」
 「………言わないで下さい」
 「大丈夫だって! 成長期でしょ」


 男としてならともかく、女の子としても「身長低い」と言われているような気がして、若干へこんだ。




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あきゅろす。
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