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calling me


 テーマは「トウキョウ・アリス」。
 現代の東京にタイムスリップしてきたアリス、がコンセプトで、メンズ・レディース共に三着。


 「…………やっぱり女装」
 「何言ってるの今さら遅いわよ」
 「はぁ………」


 俺は原宿にあるスタジオで化粧をされながら、今日の撮影について書かれた紙を読んでいる。
 編集長さんや企画さんに会うのは勿論初めてで、「こんなモデル使えない。大体男だし」と却下されることを祈って顔合わせをしたら、


 「イイ!!」


 二人揃って親指を立て、グッとOKサインを出されてしまった。………泣いていいだろうか。


 「それにしても晶君、肌綺麗ー!ケアとかしてる?」


 まったく嬉しくないことを言ってくれたのは、ヘアメイクの由美さん。ちなみに今回の現場で、由美さんとスタイリストの岡部さんだけが、俺が男だということを知っているらしい。エレナさんは除く。


 「………してないです」
 「まつ毛バッサバサだし、本当はメイクしなくてもいいくらいだよね」
 「基本ナチュラルで、三着とも変えないから、どれにでも合うメイクにしてね」
 「はいよー」


 エレナさんの声に、由美さんは左手を挙げた。塞がった右手はパフを掴み、俺の肌にぱたぱたと叩き込まれる。
 ぎゅっと目を瞑った。
 すでに肌が重い。呼吸が出来ていないのが、感覚で分かる。女の子ってあんな可愛い顔して、こんな拷問みたいなことしてるのか………怖ぇ。


 「目開けてー」
 「はい………って何ですかこれ!」


 目を開けようと瞼を持ち上げた瞬間、あまりの重量感に声を上げる。驚いて瞬きするたびに、目の下に何かがちくちくと当たる。


 「つけ睫毛。あ、晶君の睫毛が短いってわけじゃなくて、撮影だから派手目のメイクじゃなきゃいけないんだよねー」
 「……何のフォローですか」


 全然嬉しくないです。

 鏡を覗き込む。わさわさとした睫毛に目が行く。何か凄いひじきみたいに見えるんだけど、女の子って本当に皆こんなことしていて、これが可愛いと思ってるんだろうか。分からない。俺は自然な感じが好きです。


 「はい、これでラストー!」


 まじまじと鏡を見る俺の頭に、かぽ、っと何かが載せられた。

 黒髪ロングの女の子が映っている。
 試しに右手をぱっと上げてみると、鏡の中の女の子は俺と同じ動きで左手を上げた。


 「やぁー可愛い!! 男の子に見えなーい」
 「嬉しくないです………」


 誉めてるんですかそれ?


 そのとき、コンコンとドアをノックする音が聞こえた。誰かが呼んだのか、このタイミングでスタイリストの岡部さんが入ってくる。


 「由美さん終わった?」
 「おぅ!見て見て岡部ちゃん、超可愛い」
 「本当だ。男の子にしては細いし、レディースも簡単に着れそう」


 エレナちゃんいいの見つけてきたねー、なんて言いながら、ラックから次々服を出しては俺にあてていく。
 つーかここに来てから俺のプライドが…………バッキバキなんだけど。


 「よし、これにしよう」


 岡部さんが取り出したのは、白いワンピースが四着に、ストライプのジャケットだった。渋めの赤が基調の柄は、何となく夏というよりは秋向けに思える。大体、ジャケット自体が今時期暑すぎるんじゃないか。


 「……ジャケット、ですか」
 「雑誌は秋に発売だからね」
 「なるほど」
 「頑張って晶君!なるべく汗かかないように」


 真顔でガッツポーズを取る由美さんに、俺の頬が引き攣った。
 無理です。




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