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「で、今回イメージに合うモデルがいなくて。司が前にやったモデルのポラ見せたら評判良かったから、司にやらせよーかなって」
名案でしょ?と笑うエレナさんに反して、司の眉間の皺は深くなっていく。
「………おい姉貴」
「そうよ。編集長にも企画にも、スタイリストさんにも話つけてあるの。これは決定事項。私の顔に泥塗られるのは困るわ」
「その荒れた肌が若返っていいじゃねーか」
「刺すわよ」
ステーキナイフを持って言うから、俺も司も固まった。
「撮影は明日。入稿は五日後だから、時間がないの」
「明日?」
急な話だ。
「平気でしょ。さっき晶君に聞いたら、大学の受講はもう終わったって言うから」
ディナー前の会話を思い出す。
司の予定を聞いてきたのは、こういう意味だったのか。身内だからいいだろうと、司のスケジュールを話した俺、馬鹿。だって司睨んでるし。
「明日はまる一日オフで、明後日には学園戻んだよ」
「尚更いいじゃない」
「よくねぇっつの。休ませろ」
「あら。夏休み、結構あったじゃない」
「一日何もない日が明日しかねーんだよ! お前には遠い昔の話だから思い出せねーかもしれねぇけどな!!」
「自分の意志で大学通ってたくせに、偉そうなこと言ってんじゃないわよ。誰も同情しないわよ」
「…………」
おぉ、司が押し黙った。
天下の西園寺 司様の弱点は、姉らしい。モデルの件は渋々ながら了解したらしく、その証拠に「決定ね」とエレナさんは笑う。
「はい、乾杯」
「しね」
「恩を忘れたとは言わせないわよ」
グラスを傾けるエレナさんに、司は乱暴に応じた。カツン、と派手に音を立て、口元に運ばれるワイングラス。皿の上に盛り付けられたメインはほとんど消えかけている。そろそろデザートの準備をしなくちゃいけない。
「後は企画の子が女の子探してくるから―――……」
カトラリーは揃ってるから、キッチンに行ってデザートワゴンを持って来るだけだ。久良さん、余分に作ってるかな。俺らの分もあるかな。
ダイニングを去り際、一礼。そういえば急に静かになったな、と思いながら頭を上げると、
……満面の笑みを浮かべたエレナさんが俺を見ていた。
「………おい姉貴」
「身長165に体重50ってとこかしら。うん、いいわ」
全身に視線を向けられ、俺はこの場を後にしていいのか分からずに立ち尽くす。
「晶は駄目だ」
「あら司、お姉様に逆らうの?」
「こいつは関係ねぇだろ」
「彫りも深いし、メイク映えしそう。肌きれいだし、ヒール履けば170も越えるでしょ。女の子より腰も細いから、色々着れそう」
「姉貴!!」
いやいやまさか、そんな。
二人の会話から暗に察した俺の額に、冷や汗が伝う。
「やってくれるわよね? 晶」
ナイフを持ちニッコリと笑うエレナさんに、背筋が震えた。
デザートを取りに来ない俺を心配した久良さんがダイニングに来ると、そこには泣きそうな顔の俺がいたという。
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