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 ちょうど拭き掃除が終わったらしい麗さんと厨房に行くと、久良さんが鍋をかき混ぜてるところだった。
 くんくんと鼻を効かせ、匂いの正体にピンと来る。


 「カレーですか?」
 「あら晶、麗ちゃんも。お仕事は終わったのかしら」
 「はい! ピッカピカです」
 「ふふ。窯の中を確認してください」


 窯?
 久良さんの視線の先を辿ると、ガスコンロの横には確かに窯があった。普通の家に何でこんなものがあるんだ。
 その上には鉄製の鍋が置かれている。近くにあったミトンを使って木の蓋をパカッと開けると、


 「うわぁ……!」


 中身は玄米だった。
 香ばしい湯気が熱くて、手で扇ぎながら顔を逸らす。キッチンの熱さも手伝って、ようやく引いた汗が再び噴き出そうだった。


 「鍋で炊いてるんですか?」
 「普段は炊飯器よぉ。今日は特別」
 「ほら晶、早くかき混ぜなさい」
 「あ、はい」


 麗さんからしゃもじを渡され、慌てて鉄鍋にそれを立てる。


 「混ぜるときは軽くお願い、少し経ったらもう一度混ぜますから。ついでに窯から降ろしてもらえます?」
 「はーい」


 炊飯器で炊くより美味しそうに見える。
 ちょっと味見してやろうかと思ったけど、麗さんがじっと見てたから、差し出した指を引っ込めた。

 久良さんが作っていたのは、夏野菜と発芽玄米のカレーだった。


 「今日は久良ちゃんが当番だったけど、いつかは晶が一人で作るのよ」
 「えっ!無理ですよ」
 「頑張ってねぇ」


 ちょっと、本気ですか。こんな広い厨房でセレブ料理作れなんて……でも久良さんの作った料理は、意外と庶民的だな。
 俺の考えてることを読んだのか、久良さんはクスッと笑った。


 「凝ったものでなくていいの。司様はそれをお望みです」
 「へ?」
 「今回の別邸での生活は、司様が西園寺の庇護を離れるための訓練でもあります。素朴で美味しい料理が作れるなら、それが一番です」
 「………へぇ」
 「だから使用人も最小限でしょう」


 あぁ、なるほど。だからなのか。

 ただの遊びまくりの金持ち野郎だと思ってたけど(実際そうだけど)、こういうとこはしっかりやってるんだ。学園では俺様何様バ会長様の司も、卒業すれば社長だ。
 …………想像が付かない。髪とかどうすんの。染め直すの?


 「そろそろ司様がお帰りだわ」


 麗さんの声にハッとした。ヤバい、またボーっとしてたみたいだ。


 「晶は司様のお部屋の最終確認をしてきて。私と久良ちゃんがお出迎えするわ」
 「電気を点けて、埃が落ちていないか、アメニティがあるか、確認してくださいね」
 「あめにてぃ?」
 「ティッシュとか」


 ホテルかよ。


 「あ、いけない」


 俺が厨房を出ようとしたら、麗さんが思い付いたみたいに言った。
 無表情だからか………何となく学園の誰かさんを思い出して、嫌な予感しかしない。


 「司様のお部屋、シーツ敷くの忘れていたわ」
 「えっ!!」
 「ついでに宜しく。ほら、急いで」
 「ぅわ、はいっ!」


 麗さんに背中を押され、ばたばたと厨房を出て行く。そんな俺を、二人の声が見送った。


 「「ごゆっくり〜」」




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あきゅろす。
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