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 にやにやと笑みを浮かべる二人は、その顔のまま俺を邸内に招き入れる。「恋かしら」「恋よ」「恋なのね」と囁き合う姿は可愛いけれど、俺のことだと思うと非常に複雑だ。
 靴を脱ごうとすると、「土足で結構よ」と言われてしまった。スニーカーの紐をほどこうと俯いていた顔を上げると、ストラップシューズが二揃い、真紅の絨毯の上を軽快に歩いていた。

 そこで改めて、俺は室内を見上げる。


 「………うわぁ」


 入るなり、そこは吹き抜けになっていた。
 三階まで大きく空いた吹き抜けを、囲うように柵がある。どうやら木で出来ているらしい。褪せたダークブラウンは古びたというよりも、味のある印象を受ける。


 「凄い、広いですね」
 「元はここが本邸だったそうよ」
 「あ、そうなんですか」
 「司様はこちらがお気に入りなの。………何だったかしら」
 「チュダーハウス?」
 「ううん」
 「チュダーハウスじゃないの?」
 「違う。ほら、あぁ思い出した」


 掛け合いの後、ボブヘアーの方……久良さんは「アニメに出てくる家をイメージしたらしいわ」と言った。


 「アニメですか?」


 こんな家が出てくるアニメ、あっただろうか。
 疑問符を浮かべていると、麗さんがそのタイトルを挙げる。アルプスの山で暮らす女の子の話だ。言われてみれば確かに、女の子が一時過ごしたドイツの家はこんな風だったような気がする。


 「ここが晶の部屋よ」


 一階の、階段脇に並んだドア。一番右側を麗さんに指され、久良さんがそのドアを開けた。


 「使用人のお部屋は一階です。バスルームやお手洗いは二階にも御座いますが、それはご主人様のもの」
 「二階三階はお仕事以外、立入禁止と思ってね」


 六畳くらいの部屋に、ベッドと小さい机が置いてある。何となく簡素なイメージの部屋だ。けれどよく見れば、机やベッドの脚には細かい彫刻が入っている。豪華な部屋よりはまだましだけど、この部屋も地味に金が掛かってるんじゃないか。そんな気がした。

 「今回、使用人は三名です」
 「私と、久良ちゃんと、あなた」


 麗さんが自分、久良さん、俺と指差しながら言った。もっとたくさん、ズラリと並ぶくらいにいるんだと思っていた俺は、少し驚いた。けれど司一人のためにそんな人数はいらないし、よく考えてみれば当たり前かもしれない。


 「司様は最小限の人数で、と仰いました」
 「だから今回別邸でお給仕するメイドは、お掃除だけではなくて、お料理もするのよ」
 「え!?」
 「大丈夫。司様からお話伺ってるわ。ある程度のお料理は出来るのでしょう?」


 そんな金持ち向けのセレブ料理とかは作れないんだけど、大丈夫だろうか。
 けれどここでクビにされるのは困る。俺は曖昧に頷いておくことにした。


 「まず最初はお屋敷の間取りを覚えていただかなくちゃあ」
 「使用人は制服がありますから、お着替えなさってね」
 「お部屋の外で待ってるわ」


 二人は示し合わせたように交互に言うと、ひらひらと部屋を出て行く。
 パタン、とドアが閉まると、一気に力が抜けた。思ったより緊張していたんだな、俺。

 話を聞くと、想像以上に仕事はキツそうだ。三人で何でもしなくちゃいけないわけだから、少なくとも楽じゃないだろう。


 「晶ぁ、制服のサイズどうかしら」
 「あ、はい!」


 ヤバい。休んでる暇なんてない。
 ベッドに乗ってる黒い塊を掴み広げた。白いシャツに黒のパンツと、腰巻きのサロンエプロン。割とお洒落だ。


 「………よっし。頑張ろ」


 俺は気合いを入れ、Tシャツを脱ぎ制服に袖を通した。




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あきゅろす。
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