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--06
 
 
 「悪いな鳴瀬」


 それまで黙ってた司が、ぽつりと呟いた。


 「隊はうるせぇけど、お前は意外としっかりしてんのな。前のやつからお前に変わって、よかったわ」


 鳴瀬先輩がハッと息を呑んだ。

 司の手が、鳴瀬先輩のふわふわの頭に伸びる。鳴瀬先輩は恋する乙女みたいなぽわんとした顔をして、それでも、


 「―――西園寺様、他の隊員に示しがつきません」


 泣きそうな顔で、笑った。


 そっか、鳴瀬先輩は司が好きで親衛隊に入ったんだ。
 その親衛隊に示しがつかないから、断った。司に、大好きな人に頭を撫でてもらえるチャンスだったのに。


 「………悪い」


 鳴瀬先輩に触れられなかった手が、すっと引いた。
 その司の横顔に、何故か心臓がぎゅっと掴まれたみたく痺れた。


 「では、お気をつけて」
 「素敵な休暇をお過ごしください」


 東門に着くと、二人は俺たちの後ろに下がって礼をした。
 「サンキュ」
 司が言ったけど、鳴瀬先輩は顔を上げないでお辞儀をしている。
 行くぞ、と先を歩く司に手を引かれ、俺も牧野先輩に礼をして東門を潜る。


 「―――鳴瀬先輩っ」


 それでももやもやして、俺は振り返って鳴瀬先輩に駆け寄った。


 「え………」


 顔を上げた鳴瀬先輩に、その勢いで抱きついた。
 周りが一気に騒がしくなった気がする。けどまあ、いいか。


 「えっと。先輩は俺の親衛隊じゃないから。俺ならオッケーかな、なんて」
 「――――」


 だって先輩、泣きそうだったから。
 俺がもし同じ立場だったら、なんてちょっとでも考えちゃったから。


 俺の腕にすっぽり収まるサイズの鳴瀬先輩は、軽く俺の身体を押し返して、


 「……ライバルの君に言われたくないよ」


 皮肉を込めた口調とは裏腹に、微笑んだ。
 女の子みたいな容姿だけど、鳴瀬先輩は実は強い人だ。

 「僕も抱きしめて!」と言う牧野先輩をハグして、今度こそ学園を後にする。……牧野先輩は隊員への示しとか、気にしないのか。いいのか。

 門の前に停まる、黒塗りの車に乗り込んだ。


 夏休みが始まる。




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あきゅろす。
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