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 「ごめんなさい市川くん」


 牧野先輩はシュンとして言った。ぺたりと垂れた耳が見える。


 「いや牧野先輩が言うことじゃないですよ!」
 「こうなった以上、解散させるのは不可能です。親衛隊が騒ぎを起こすのを食い止める形でご勘弁下さい」


 鳴瀬先輩は申し訳なさそうに、頭を軽く下げて言った。
 ていうか、鳴瀬先輩って司と同い年だったはずだ。敬語とか使わなくていいよこんなやつ。うんこ投げてやれ。


 「桜庭君、すいません」
 「……もう仕方ねぇだろ。つーかこれ、どうやって収めるんだよ」


 俺たちが喋ってる間も、騒ぎ声はキャーキャーと収まる気配もない。
 晴一さんが耳を塞ぎつつ言うと、牧野先輩はうっかり惚れそうなくらいに綺麗な笑顔で応えた。
 そして俺たちに背中を向け、すぅ、と息を吸う。


 「オラァァァァ静かにしろテメェら!!」


 えぇぇぇぇ!!!?

 
 『静粛に! これは生徒会役員の方々のお見送りです! 一般生徒に迷惑を掛けたり、役員の皆様の生活の妨げになる行為を、西園寺会長親衛隊、並びに市川役員補佐親衛隊は認めておりません!!』


 続けて鳴瀬先輩がスピーカーを通して言うと、あれだけ騒がしかった親衛隊はシンと静まり返った。
 ………そのスピーカー、牧野先輩にも使わせてあげればよかったのに。


 「―――失礼しました。さぁ行きましょう、お先を失礼します」


 鳴瀬先輩と牧野先輩は礼をして歩き出した。俺たちはその後についていく。
 「いってらっしゃいませ」「よい休暇を」「いってらっしゃいませ」
 道の脇にいる生徒が(というよりはむしろ、道が人で出来てるんだけど)、口々に言って礼をする。さっきまでの騒ぎが嘘のようだった。


 「あの、ありがとうございます」


 先輩の後ろ姿に向かって言うと、二人は振り返って笑った。


 「こちらこそごめんなさい。市川くんの親衛隊は出来たばかりだから、まだ隊内の規律が整っていないんだ」
 「西園寺様の親衛隊は中等部からの古株も多くて……この春、隊長に任命されたけれど、隊員がとても多くてなかなかまとめられません。ふがいないです」
 「いやそんなことないですよ。ちゃんとまとまってますよ」


 さっきまであんだけうるさかった親衛隊が、二人が話すだけでこんなに静かになったし。
 それって「まとまってる」んじゃないの? これでまとまってないなら、生徒会なんてヤバいですよ実際。


 「新学期から、風紀も親衛隊について考え直したいと思ってる。頑張ったな」


 晴一さんがヨシヨシ頭を撫でると、鳴瀬先輩は大きな眼を更に見開き、牧野先輩は目にじわりと涙を浮かべた。
 隊長の二人がしっかりしてるのに、下がついて来ないというのは、何というか不憫だ。




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