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「痛っ………てぇぇ!! 離せ司!」
「でもあれだな、お前は五年もここにいるから方言抜けるけど、木崎は標準語じゃね?」
「この状況で普通に話すなよ……そういやそうだな」
ギギギ、と爪が喰い込んで痛い。この状況で、なに平然と話してるんだ。離せ。
「三月までは京都にいたんだろ?」
可哀想な俺の思いが通じたのか、司はそう言ってパッと手を離した。相思相愛だな俺たち! バーカ!
しかも自分がやったくせに、掴んでいた場所を優しく撫でてくる。飴と鞭? ドメスティックバイオレンス? SMプレイ? どれも俺好みじゃないからやめてほしい。
「一週間で標準語使えるか?」
「………知らねぇよ」
「怒んなって。………お、連絡来てた」
司は黒い携帯を開き、カチカチと弄る。
司の別邸までは、西園寺家の人が車で送ってくれるらしい。その車が寮の目の前にある門――東門に着いたら、司の携帯に連絡が行くようになっていたみたいだ。「行くか」とコロコロを持ち直す。
「ほら晶、行くぞ」
「あ」
司はそう言って、ひょいっと俺のドラムバッグを持ち上げた。
こうやって、こういうタイミングで優しくしてくるから、さっき頭を掴まれたのも怒れない。許してもいいか、なんて思える匙加減がわざとなら、司はかなりずるいと思う。
前を歩く二人は、寮の玄関を出て立ち止まっている。
まずい、立ち止まってぼんやりしてた。二人とも、俺のこと待っててくれたのかな。早く行かなきゃ、と小走りで駆け寄る。
そして自動ドアが開いた瞬間、その考えが間違いだったということに気づく。
「司様ァァァァ!!!」
「晶くーん!!」
寮の玄関を出ると、
「………何これ」
親衛隊がいた。
寮の入口から東門まで、ずらりといるいる。チワワチワワチワワ。
一応普通に歩いてる生徒が通れる道は空けてあるのが、何というか、そこは配慮出来るんだ。みたいな。
ぽかんと立ち尽くしていたら、前の方にいた生徒が突然こちらへ駆けて来た。
「西園寺様!」
「市川くん!!」
ぎょっと身体を強張らせるも、それは見覚えのある顔だった。ふわふわの明るい茶髪が走るたびに揺れる。
「牧野先輩」
「ごめんね、凄い騒ぎになって」
「オイ鳴瀬、何だこの大群」
「ちょ……司!!」
「申し訳ございません、西園寺様」
司の親衛隊隊長――鳴瀬先輩は、司の態度にキレたりもせず深々と頭を下げた。
「生徒会の皆様のお見送りについては、最大限に統括してきたつもりです。でも今回、中等部の生徒が何故か混じっていて……」
「中等部?」
言われてみれば、高等部とは違う制服がちらほらと見える。紺系のチェックパンツにストライプのネクタイ。あれが中等部の制服なのだろうか。
「日頃から統括してねぇからだろ」晴一さんが司に向かって言った。すいません、その通りです。
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